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02.知らなければ戦えない
赤い煉瓦と白い花崗岩で造られた建物の中で、足元が覚束ない感覚と戦っている。
「君は絨毯の上を歩いたことがないの?」
「建物の中でも靴を履いているってこと自体、初体験です!」
先を歩く少年が呆れ顔で振り向いたのに、颯太は必死の笑顔を返した。
「大丈夫、緊張してない!」
思った以上に声が響いて、さらにその前を歩いていた中年まで振り返る。
「鎮台の中では静かにしたまえ」
「すみません!」
「だから、静かに!」
今度は、中年と少年に怒られた。
――緊張してない緊張してない! 俺、頑張ってるから! ねえ、菜々子!
絨毯を踏みしめて進んだ先の扉が、重々しく開かれる。
「失礼致します」
北側に窓があるその部屋の床にも、毛足の長い絨毯が敷かれていて、颯太は口元をもぞもぞさせた。
部屋の奥の大きな机の前に、さっきまで先に歩いていた少年と並んで立たされる。
机の反対側、窓を背に立つ青年が、颯太と少年を交互に見て、笑った。
「本年度の新入兵のうち、こちらの配属となった二人です。確かにお引継ぎします」
「山科中尉。ここまでの引率ご苦労様でした」
挙手の礼を交わして、ここまで一緒に歩いてきた中年が部屋を出ていく。
入隊審査の時から見慣れた顔が去って、ちくり、と胸の奥がいたむ。
――いやいやいや、のすたるじぃしてる場合じゃないから! 俺は軍人として頑張るって決めたんだし。ねえ、菜々子!
直立不動。くわっと目を見開いて、正面にいる相手を見た。
――こ、この人が上官……!
濃紺の肋骨服を着た、中肉中背の、目立つところのない体躯。
輪郭も引き締まっていて、釣り眉と三白眼なのに、口端が緩く上がった笑みの形なのが、逆におっかない。そんな顔立ちの、十は年上だろう彼に。
「名前は?」
と問われる。
――うわーっ! 話しかけられたあああああ!
心の内で騒いでいるうちに。
「園池櫂と申します」
隣にいる少年のほうが先に口を開いた。ビクッと見遣るが、彼は振り向かない。
なんだろう。同じ十八だと聞いているのに、この差はなんだ。
こちらは軍服に着られているような有様なのに、彼はしっかりと着こなしている。そして、問われたことに落ち着いて答える冷静さ。
――俺、ダサい? ダサいかな、ねえ、菜々子!
「そっちは?」
声がかかり、慌てて、向き直った。
「こ、駒場颯太です!」
上擦った声。だが、正面の相手はにっと笑った。
「柳津史琉。皇都鎮台第五部隊長だ。よろしく頼む」
椅子に座りなおすこともなく、部隊長は真っすぐに颯太と、櫂と名乗った少年を見てくる。
「知っていると思うが、おさらいだ。
鎮台には十の部隊があり、それぞれに部隊長がいて、指揮を執っている。今からおまえたちは、この第五部隊の所属だ。だから、俺の言うことを必ず聞いてもらう。いいな」
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