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言って、隊長殿は視線を横にずらした。その先、壁を背にもう一人立っている。
こちらは背は低いものの、肩ががっしりとした体格。おまけに、精悍そのものの顔立ちに、するどい空気を放っていて、またまた親しみはなかったのだが。
「俺に万が一のことがあった場合は、そこにいる副官、高辻律斗少尉の指図を聞くように」
柳津大尉の言を受けて、彼も頷く。
――上官その二……
切れ長の瞳に値踏みされているようで、颯太は背筋を伸ばした。
「向くのは正面」
ぼそりと高辻少尉が言い、あ、と呟きながら向き直る。正面ではまだ、部隊長が笑っている。
「俺も五日前にここに着いたばかりでね。まだまだ不慣れっちゃあ不慣れなんだ。まあ、頑張ってやろうな」
寮の部屋の場所を告げられ、まず荷物を片付けてこい、と執務室を出してもらえた。
「ああ、緊張した」
「していないって言ってたじゃないですか。まあ、どう贔屓目に見ても、緊張してましたけど」
一緒に出てきた少年がじっとりと見上げてくる。颯太は肩を縮こまらせた。
「すみません、背だけはバカでかくて」
「うん。大きいよねえ。一八〇糎ある?」
「ある……」
「へえ」
拳一つ分ひくい少年は、首を傾げた。
「背が高いほうが見栄えがいいよね。でも、柳津大尉も僕と同じくらいだったし、高辻少尉はもっと低かったかな。身長関係ないよね」
「背が高いだけで馬鹿にされることもあるんだよ!」
そう、バカでかいだけの馬鹿と里では呆れられていたのだ。それを払拭するための、一念発起。
――頑張る、頑張るから! ねえ、菜々子!
凛々しい幼馴染の顔を思い出しながら、ううと呻いて、頭を抱えると。
「ほら、行きましょうよ。颯太」
と少年が言う。
「あ、はい。ええっと……」
「園池櫂です。同期なんだから、覚えてくださいよ」
「うん。よろしくお願いします」
ぴょこっと頭を下げてから、すたすた歩いていく彼を追った。
辿り着いた寮は、幸か不幸か、櫂と相部屋。運び込まれていた荷物を解きながら、ああでもないこうでもないと、片付けていく中で。
「それにしても、やっぱりいいなあ。士官服」
櫂が呟くので、颯太の目は点になった。
「へ? なんで?」
すると、櫂の目は丸くなる。
「僕らの服と、部隊長殿副官殿の服が違ったの、気が付いた?」
「え? ああ、そう言えば…… 向こうのほうが派手だった!」
ここ、と袖を指さす。
今、颯太と櫂が着ているのは、黒と見紛うばかりにふかい濃紺の軍服。一般兵ではなく将校となると、それを表す袖章が刺繍される。位が上がれば上がるほど、飾り線の数が増やされて、将軍ともなれば金糸で彩られる。
それを踏まえて言ったのだが、櫂の視線は氷点下の冷たさだ。
「君、陸軍服則、ちゃんと読んだ?」
「い、一応」
背中にどっと汗が流れる。
「なんか一緒にいて、僕まで知らない奴扱いされるのはイヤだから、教えてあげる」
「お願いします」
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