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台所のキッチンマットに、明らかにナメクジが這いずり回りました、という跡があった。
幾筋も。
ここは私の聖域だい!ナメクジごときに好き勝手されてたまるか!
ちなこは怖い笑顔で握りこぶしを作った。
夜、活躍し終わった台所に静寂が訪れる頃、ちなこはソローリと台所へ。
いたいた。
腹が立つほど立派に太ったナメクジが、ナメクジしてキッチンマットの上をうろついてた。
ちなこは長男を召喚しながらゴミ箱から晩御飯で使いきった豚肉小間切れ1キログラムの入っていたトレイを持ち出した。そして割り箸も。
ナメクジを摘まんでトレイの上へ。
ナメクジは割り箸でつままれると、ぬたあーっとナメクジした。
長男は都会っ子で、虫が大きらいだ。ナメクジかナメクジしている様を見ておよび腰になっている。
「長男、これからこいつをやっつける。ナトリウム光線」
「えっ?何?」
ちなこが長男に手をちょうだい、と出すと、長男はおろおろした。
「教えたでしょう、ナメクジにはナトリウム光線。早くちょうだい」
「ナト…ああ塩ね!ちゃんとそういってよ」
長男は調味料入れから塩を一掴みちなこの手に落とした。そうしながら
「嫌な死にかただねーナトリウム光線体に浴びて死ぬなんて」
「じゃ生かしとく?」
「やだよ、こんな奴台所うろついてたらおちおち水も飲めない!」
身の丈二メートルに近い長男は、たかが5cmのナメクジにトリハダ立てて、半泣きだ。
ちなこは受け取ったナトリウム光線を悪い笑顔してナメクジに満遍なく振りかけた。
とたんに元気にナメクジしだすナメクジ。
もっと沢山ナトリウム光線を振りかけるちなこ。
「ゴキブリもナトリウム光線したら死ねばいいのに」
ボソッといいながら自分もナメクジにナトリウム光線を振りかける長男。
小一時間ナメクジはナメクジしたあと、おとなしくなった。
時は夜中。空っぽのスチロールの生肉が入っていたトレイに真顔で身を屈めている成人した息子と母ちゃん。
どちらともなく「フッフッフ」という笑い声をたてはじめた。
もう台所にはナメクジは居ない。
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