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談雑4:御座候
「上手くいったと思ったんですけどね」
「悩んだフリをして司さんのお遊びに付き合ってあげただけです。それにしても何なんですか『茶色の物体』って?」
「御座候です」
「ござそうろう?」
「あれ? わからない? まあ、別名の方が有名かな? ネットで検索してみてください」
「別名があるんですね? えーと、どれどれ……あ、なーんだ」
「はい、そういうことです」
「え? でもちょっと待ってくださいよ……たしか、『茶色い物体』を生産したのは愛犬って言ってませんでした? 犬にそんなことできないでしょう?」
「何事も訓練です」
「いやいや、無理でしょう。いくらなんでも、できることとできないことがありますよ」
「左くんは上杉鷹山を愚弄するおつもりですか?」
「うえすぎようざん? 誰それ?」
「ええ!! 知らないの? もう、聖書ばっかり読んでるからそういうことになるんですよ。いいですか、上杉鷹山とは、江戸時代中期の大名です。この人はですね、えーと……その、米沢藩の藩主で新規事業の振興、技術開発、人事組織改革、教育改革などを断行し、へぇ……経済的に破綻をきたしていた米沢牛を蘇らせた名君なんですよ」
「スマホを見ながらしゃべっているということは、本当は知らないんですね?」
「し、失礼な! 知っとるわ!」
「米沢藩のこと『米沢牛』って言ってましたよ」
「え、うそ!」
「ホントです。読み返してごらんなさい。途中、読みながら感心してたし」
「……あ……ホントだ……てへっ(ニコッ)」
「で、私がその人を愚弄しているとはどういうことですか?」
「あ、そうそう、上杉くんの言った言葉の中にですね――」
「『上杉くん』って、友だちかい!」
「おぉ! いー突っ込みですね。やればできるじゃないですかぁ、んもー」
「今の『んもー』は米沢牛を引きずっているんですね? 細かいなぁ」
「その、ようちゃんが言った言葉の中にですね…………………………
あれ?」
「ん? どうかした?」
「今のは突っ込まなきゃ……『「ようちゃん」って、友だちかーい!』って。……なにやってんの左くん、せっかく、ちょっと間を空けといてあげたのに」
「いちいち突っ込んでたら、進みませんからね。あえて流しました」
「んもー」
「……」
「あれ? 今のは――」
「突っ込みませんよ」
「えー、つまんなーい」
「これだけ脱線すると、自分が何を話していたのか分からなくなるでしょう?」
「そうですね……それほど大事なことを話していたわけでもないでしょうから、うん、寝ます」
「おーい! 私が質問したんです。ちゃんと答えてください」
「質問? そうだっけ?」
「どうやったら、犬ごときが回転焼を作れるんですかっって話!」
「わたしの可愛いモンキーを『ごとき』扱いとはひどいですね」
「え? 『モンキー』? 犬だよね?」
「そう。わたしの愛犬、名前はモンキー」
「ああ、脳がどうにかなりそうです」
「訓練で、犬にはかなりのことができるんですよ。今川焼だって作れます」
「回転焼って言わないんだね。あくまでも」
「上杉鷹山の残したこんな言葉があります」
「そう、そこから!」
「為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり」
「あー、聞いたことあるな……意味は?」
「『何でもできるよ♡』。っていう早口言葉です」
「……司さんが言うと、こう……薄っぺらですね」
「う、うすっぺらぁ?」
「あ、すみません。言い過ぎました」
「フッ、謝られたら許すぜ!」
「で、犬にも何でもさせられると、訓練で」
「できることとできないことがあります」
「え? それ、私が最初に言ったことですけど」
「おや? 奇遇ですね」
「じゃあ、いったい、回転焼は誰が作ったんですか? 犬じゃないってことですよね?」
「あじまんは露店で購入しました。わたくし、ウソをついておりました」
「あくまでも回転焼って言わないんですね、司さんは」
「わたしのポリシーです」
「どーでもええわ!」
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