談雑8:眠っても眠っても

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談雑8:眠っても眠っても

「ところで左くん、眠っても眠っても眠たいってことありますよね?」 「あー、そんな台詞、聞いたことありますね」 「左くんは、あれって、どういうことだと思います?」 「結論から言うと、その人は眠ってないのでしょうね。私はそう思いますよ」 「いやいや、眠ってるんです。眠ってるのに、眠たいんです。そういうことってあるでしょう? っていう話です。話題を右に逸らさないでくださいよ」 「右? 何で右? 話の逸らし方に方向があるんですか?」 「あ、ほら、また逸らした! 上に逸らしましたね」 「上? いやいや、別に逸らす気なんてないですよ。そもそも、私は司さんの質問に答えようとしているんですよ。話をややこしくしているのはそちらでしょう?」 「あー、わたしのせいにするつもりなのね! そうやって話を下に逸らすんですね? 逸らしまくりやな~、このしゃべる物体は」 「『しゃべる物体』って何です? そんな言い方するのなら、司さんも『しゃべる物体』ですよね?」 「一緒にするなあぁ!!」 「わ~……切れたよこの人……」 「アントロポスをなめんなよぉ!」 「あんと……なにそれ?」 「ピテコスではないってことやんけ!」 「ぴ、ぴて……あぁ、もういいや。何の話だったか忘れてしまいました」 「そうやって諦めると、話が進みませんよ」 「キミが言うな!」 「あ、左くんも切れることあるんですね……けっこう引くわ~」 「……話を進める気がそもそもないですね? 司さんは」 「何を言ってるんですか? ありますとも!」 「じゃあ、早く戻してください」 「だいぶ逸れましたからね。戻すのが大変です……えーと、右に逸れて、上に逸れて、下に逸れたから……あーそれほど大変でもありませんでした。左に戻せば良かっただけです」 「はいはい。で?」 「食べても食べても腹が減ってるってことありますよね?」 「ん? ちょっと変わってないかい?」 「さて左くん、それって、どういうことでしょう?」 「えーと、ま、いいか……」 「何がです?」 「いや、何でもありません。訂正しようものなら、また話がややこしくなりそうですからね」 「え?」 「いやいや、はい、えー、その人は満腹中枢が異常をきたしているんでしょうね。早めの治療をお勧めします」 「ブー! 違います。正解は、『その人は茶碗によそったご飯を一粒づつ食べていた』でした!」 「え? クイズだったの?」 「はい。その方が楽しいですから」 「じゃあ、最初の話は?」 「何のことです?」 「ほら、『眠っても眠っても眠たい』とかなんとか」 「左くん、それは、その人、眠ってないのでしょう」 「いやいや、しっかり『眠っているのに、眠たい』って言ってたじゃないですか」 「え? わたし? そんなこと言ったかな? 別に眠たくないですけど」 「いや、司さんがどうのということじゃなく――」 「あー、左くんか。何か悩み事があるんじゃないですか? それで眠れない日が続いているのですね? かろうじて朝方うつらうつらしだしたかな~と思ったら起きる時間になってるとか……で、なに? どんな悩み? お姉さんに話してみる?」 「私は眠れてます!」 「もう、強がりさんなんだからン♡」 「気持ち悪いなぁ」 「いいわン、お姉さんがアドバイスしてあげる♡。いい? 左くん。ご飯を一粒づつ食べるとすぐに満腹になれないのと同じで、睡眠も一粒づつ眠っちゃうと、なかなか熟睡できないものなのよ。だ・か・ら、一粒づつ眠ったりしないで、ちゃんと眠ってください! 以上!!」 「『一粒づつ眠る』ってどういうこと? 言ってることが謎過ぎて鼻血が出そうです」 「鼻血? わぁー見たい、出して出して」 「出ませんよ! 思考がとてもついて行けないという、ものの例えです!」 「まさに、それです」 「は?」 「わたしが言っているのも、ものの例えです」 「わかりにくいなぁ……例えで話をややこしくしてどうすんですか」 「だって、その方が楽しいですから」 「……楽しけりゃいいんですね、司さんは」 「あれ? 知らなかったんですか?」 「……知ってました」
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