4:blue illusion

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「よかったですね、蓮見さん、イルカに触れて。」 プールサイドに乗り上げたイルカの真横で、蓮見さんと俺は本物のイルカと触れ合い、記念写真を撮った。 せっかくなので、自分のカメラでも撮ってくれるというので、邪魔者な俺は枠外にはけて、イルカと蓮見さんのツーショットを撮影してもらった。 隠しきれずにご機嫌な蓮見さんは、保存された写真を眺め、水族館のカフェスペースでパフェを食べながら楽しそうだ。 昨日あんな場面に遭遇してしまった手前、気分転換にでもなればとデートに誘ったがこれはいい作戦だったのではないだろうか。 「それでは蓮見さん、どこか他に寄りたい所ありますか?」 「いえ、特にないわ。」 笑えるほどになんの未練さもなく、帰る気満々の蓮見さん。 スプーンを置き、御馳走様、と手を合わせて紅茶のカップに手を伸ばした。 「ねぇ蓮見さん・・・周りの人から見たら、俺たちどんな関係に見えるんでしょうね。」 それは、いつもと同じ、ほんの出来心、揶揄うように口をついた言葉。 「・・・・・・」 蓮見さんは顔が歪む程の嫌悪を浮かべ、別人のような顔になる。 「どんな関係でもないわ。他人よ。」 「それは、蓮見さんの見解、キモチですよね?傍からはそうは見えない、かもしれない。」 「他人にどう見えようと関係ないわ。私たちには何もないし、他人よ。」 「他の人と書いて他人です。その点で言えば、血縁者であろうが、自分以外は他人だ。」 「・・・そんな屁理屈・・・今は関係ないじゃない。」 「血縁者である身内も、恋人も、進展して配偶者になろうが、血を受け継いだ子供だろうが、自分以外は他人ですよ?」 「・・・何が言いたいの?」 「・・・・・・さあ・・・なんだったか忘れました。だけど、蓮見さんにとって、嫌っている俺だけが他人ではなく、どんなに近い距離にいる人間でも・・・他人という定義においては、他人しかいないのでは?と思ったんです。」 <他人>そう何度も口にされるうちに、なぜか無性に腹が立ってきて、反論してしまった。 蓮見さんのこの言い方はいつもと同じで、何も変わらないのに。 別に蓮見さんが俺をなんとも思っていないのは言葉の通りなのに。 「・・・・・・案外理屈っぽいのね。それに、私は誰も愛さない。だから、自分以外の人間は全て他人というのなら好都合だわ。深く踏み込まれて不快感を感じる事もないでしょうから。・・・その点で言えば、やっぱりあなたは嫌い、不愉快だわ。」 周囲の楽しそうな声、店員が客を呼ぶ声、喧しい耳障りだと感じる喧騒の中、俺と蓮見さんだけが、今この瞬間に別れ話でもして違う方向に歩いて行く2人のようにピンと張り詰めた重苦しい空気に包まれていた。 別れるも何も、まだ何も始まってもいないのにだ。
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