1:fast contact

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「・・・フォローになってないですよ」 「事実だから仕方ないだろう、蓮見。このまま社内の案内を頼むよ、あと30分で昼休みだし、案内終わったらそのまま休憩に入っていいから。」 「・・・分かりました。」 蓮見さんはちらりと俺を見て、データを保存してくるから少し待ってとデスクに戻った。 不本意そうなその顔に俺は胸が疼くのを感じた。 蓮見さんに案内されて、関係部署や倉庫、会議室、医務室、食堂、休憩室、更衣室を回った。 休憩室には仮眠できる簡易ベッドもあり、使用する際には鍵を掛けて使用中の札を出すようにとの事だ。 仕事中はスーツという規定はなく、取引先に訪問する予定がある時にはスーツ、社内では来客時に失礼に当たらない服装なら自由という割と緩い規定。 今俺の横を歩く蓮見さんも、長いであろう黒髪を纏め、胸元にひらっとしたリボンのある白い7分袖のカットソーに紺色のカーディガン、黒のパンツスタイル。 (女性の服装を説明するのは難しい・・・) その距離は2人分ほど空いている。 そして、更衣室があり、なんならシャワーもある。 というのも、ビルの地下には社員専用のジムがあるからだ。 社員の運動不足予防という名目でスポーツ好きな社長が作ったらしいが、ひと月に決められた回数行くと、回数に応じてご褒美があるというシステム。 しかし、仕事後に利用する者はほとんどいないらしく、使用率は低いらしい。 案内以外の会話もなく、時折シンとした静寂が訪れる。 廊下に響くのは2人分の靴音だけ。 「・・・蓮見さんて」 「余計なことは聞かないで。仕事する上で必要な事は教えるから。」 スパっと遮り、蓮見さんは明らかに俺を拒絶する。 「何でですか?俺、蓮見さんのこと、知りたいんですけど」 1人分距離を詰める。 靴音が響いて、壁沿いに歩いていた蓮見さんに俺の影が落ちた。 「っ!!」 更に1歩詰め寄り、距離はゼロになる。 俺の胸の位置にある蓮見さんの頭。 「ねぇ蓮見さん、何でそんなに距離取ろうとするんですか?俺だから?ってわけでもないか・・・初対面だし・・・。じゃなかったら、男嫌いか、男性恐怖症か」 バシッ!!!! 左の頬が熱く、脳が揺れた。 頬を抑える俺の視界に映った蓮見さんは、猫が跳ねるようにして一瞬で後ろに距離を取っていた。 右手を赤くして俺を睨みつけて明らかに怒っている。 あぁ・・・怒ってる顔、好きだな。 「・・・あんた、本当に嫌い!!!!!!」 どうしよう、可愛い。 俺は、これから幾度となく投げつけられる事になるこの言葉と、髪を乱して怒る蓮見さんをどうしようもなく可愛く思った。
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