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蓮見さんが泣き疲れて眠った後、身の置き場に困った俺はとりあえずクッションを枕にラグに転がって一夜を明かした。 「ねぇ、ちょっと、そこに転がってると邪魔だからどいて」 蓮見さんの冷たい言葉で起されても、昨日までのような突き刺さるトゲトゲしさはなく、それが地味に嬉しくて頬が緩む。 「・・・何ニヤニヤしてるの・・・きもちわる・・・」 うわ、と顔をしかめながら俺を見下ろす。 下から見上げるのも、なかなかいい・・・。 「蓮見さん、ショーパンからパンツ見えそっうわっ」 降り下ろされた足は容赦なく俺の顔のあった場所を踏みしめた。 「ちっ・・・」 「蓮見さん、今本気でしたよね?マジなやつじゃないですか」 「昨日のお礼に何か作るから、その髭ヅラどうにかして」 「ほんともう言い方・・・」 「なに」 「なんでもないです」 俺は蓮見さんの手料理にウキウキと、荷物からシェーバーを出して洗面所へ向かった。 案外律儀というか、口は悪いし乱暴なんだけど、純粋っていうか・・・。 髪の毛や汚れのない綺麗な洗面台。 歯ブラシやコップ、歯磨き粉、メイク落としや化粧水、乳液・・・ボディローション・・・ 女の家が初めてなわけでもないのに、見てはいけないものを見てしまったようないけない気持ちになっている俺・・・。 ほんと、どうしたんだ、ドキドキしてるとか変態か・・・!! 「ねぇ」 「!!はっはいっ!!!!!」 「・・・余計なもの触らないでよ・・・」 訝し気に俺と洗面所の中を見比べて、うんざりした顔で蓮見さんは顔を覗かせた。 「目玉焼きと卵焼き、どっちがいい?」 「え・・・」 「?だから、目玉か卵焼きか・・・めんどくさいからあんたの、黄身無しにするわよ」 「それはちょっとっ・・・!卵焼きがいいです!甘い卵焼き!」 「・・・・・・奇遇ね、私も甘い卵焼きが好きなの」 少し機嫌よく、蓮見さんはキッチンへと戻って行った。 案外気が短いのも、甘い卵焼きが好きなのも、やっぱり可愛い。 「うわ・・・え、俺泣いてもいいですか?」 「やめて、気持ち悪い・・・」 目の前には、味噌汁、白いご飯、ふわふわな卵焼き、ほうれん草の胡麻和え。 そして、蓮見さん。 「さっさと食べないと冷めるわよ」 手作りの和食と蓮見さんと2人の食卓に感動している俺を無視して、蓮見さんは先に食べ始めている。 「いただきます・・・!」 「・・・」 「あ~~~~染みわたる・・・」 「ばかじゃない、ただの味噌汁よ」 「違いますよ、蓮見さんが俺のために作ってくれた味噌汁です」 「それこそ違うわ、私の朝食にあんたが居合わせただけ。」 「ほんとに美味いです」 「もう黙って。」 俺はそのあと白飯も味噌汁も2杯ずつおかわりをして、冷凍しておく予定だったのに、と空っぽになった炊飯器を洗いながら、蓮見さんは不満そうに呟いていた。
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