あいが溢れてる

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その事実を告げられた瞬間に覚悟が決まった。 「類君と二人で話したいの」 そしてこの胸の内を伝えたい。 未来の弟を励ます為と解釈したのか、快く同意してくれた海とご両親をロビーに残し、私は病室に向かった。 「愛さん…」 「検査の結果聞いた」 「そっか」 ベッドの上の彼は穏やかに微笑むと、「あ、とりあえず座って」とパイプ椅子を右手で指し示し、続ける。 「ごめん、こんな時に。でも、式は予定通り挙げてよ。俺が欠席しても何ら問題はないし。ただ、二人の晴れ姿を撮れないのは残念だけどさ」 私は言葉に詰まった。 類君は婚約者である海の弟で、プロのカメラマン。 1ヶ月後に控えた私達の結婚式の撮影をお願いしていた。 だけど…。 「あ。写真、良いかな?」 テーブル上のカメラに手を伸ばしつつ彼は陽気に問いかける。 「ファインダー越しの景色が見られるのも、あと僅かだし…」 私は衝動的に立ち上がり、その勢いのまま彼に抱きついた。 「え?あ、あいさん!?」 なぜこんなに明るく振る舞えるのか。 彼の両目には悪魔が宿っているのに。 だけどそうなって初めて、私はずっと気付かないフリをして来た、心の奥底に封じ込めていた想いと向き合う決心がついたのだった。 「私が類君の目になる」 「……え?」 「これからは私越しに景色を感じ取って」 「な、何言ってんの?」 彼は笑う事に失敗した、上ずった声で言葉を繋いだ。 「愛さんは兄貴の婚約者だよ?」 「良いの」 「良くないよっ。色んな人に迷惑がかかる。っていうか、兄貴の気持ちを考えたらとてもじゃないけどこんなこと」「類君は?」 首筋に埋めていた顔を上げて囁いた。 「類君の、気持ちは?」 彼の瞳が大きく揺らぐ。 もうすぐ光を失う、その瞳が。 「たとえ世界中の人を敵に回しても、私は類君の傍にいたい」 その刹那、力強く引き寄せられ、唇を塞がれた。 きっとそれが彼の答え。 『【真を写す】って書くんだよね』 初めて会った時の熱い言葉を思い出す。 『その瞬間の真実が形となって、後世まで受け継がれて行くんだよ。写真てすごいと思わない?』 きっと私はあの時から、類君の事が…。 ごめんなさい。 心の中で謝罪する。 これから傷つけてしまうであろう、愛しい人達に。 だけど真実を写し出すカメラの前で、自分の気持ちに嘘なんかつけない。 この溢れ出す想いを抑える事なんて、私にはもう、できそうにないから。
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