その青も

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お気に入りのレアな飲み物をゲットするべく、自販機コーナーまで歩を進めると、ベンチにちょこんと腰掛ける生き物と遭遇した。 「あ、おはようございます先輩」 癒し系の笑顔を浮かべつつ挨拶してくれる彼に、心がほんわかとなる。 テレビで見ない日はない程の大人気アイドルグループ【AIR】の一員、一之瀬蒼君。 私の事務所の後輩である。 といっても私の方はバラエティばかり出ている、いわゆるバラドルってやつなんだけども。 正統派アイドルとしてデビューした筈なのに、一体どこで道を誤ったんだか…。 でもまぁあちこちの番組に呼んでもらえて、更にレギュラーまで獲得できたんだから、そこは有難いと思わなくちゃね。 どうせ私の人気なんて一過性のものだろうけど、稼げる時に稼いでおかなくちゃ。 最近ようやく仕事をもらえるようになった、俳優である弟を支える為にも。 「先輩もこれから収録ですか?」 「うん。それで、本番前に大好物の飲み物で景気づけしとこうと思ってさ」 当初の目的を思い出し、私は自販機に近づいた。 「【ピーナツラテ】ってやつ。他では見かけた事ないんだよねー。だからこの局に来た時には必ず買うんだ」 言いながらボタンをプッシュし、ほどなくして落下したブツをいそいそと取り出す。 楽屋まで我慢できずに、私も蒼君の隣に腰掛けるとさっそく缶に口を付けた。 「んー!やっぱおいしー!」 一週間ぶりの自分へのご褒美を堪能していると、蒼君はいきなり私の手から缶を取り上げた。 『へ!?』と思っている間に自分の口元へと運ぶ。 「ほんとだっ。すごいうめ~!」 思わず目が点になる。 「あ、先輩もどうぞ~」 固まっている私の手に缶を戻すと、今度は自分が飲んでいたものを差し出して来た。 青い缶に入った、甘い香り漂うミルクココア。 ……な、何て恐ろしい子なんだ。 こういう事を、ナチュラルにやらかしてしまうとは…。 だけどそんな掴み所のない自由な感じが、彼の魅力の一つなのよね。 そう、それはまるでウナギのような…。 って、ウナギって! センスの欠片もない比喩に、思わず自己ツッコミを入れた。 私が正統派になれなかった理由はこういうとこにあるのかもね。 それはさておき、相変わらず彼は笑顔で缶を差し出している。 …別に良いよね? 誰に向けてか分からない言い訳を、心の中で呟いた。 蒼君のココアも、ちょっとだけ、味見してみるだけだもの……。
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