最後の恋

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ソファーで寛ぐ肇の隣に腰掛け、実家から転送されて来た葉書を差し出す。 「ん?同窓会?」 「うん」 高校卒業から15年。 定年を迎えた当時の担任の祝いを兼ねた会への誘いだった。 「この先生の奥さんて、元教え子だったらしいんだよね」 「え!?」 「といっても、卒業してしばらく経ってから付き合い出したから、問題にはならなかったらしいけど」 「へぇ~。誰から聞いたんだ?まさか先生本人じゃないよな?」 「私に教えてくれたのは部活の先輩で、その人も上の学年の人から聞いたんだって」 そういう話はどこからともなく伝言ゲームのように伝わるものだから。 …私の事も、いつか皆に知れ渡ってしまうのかな。 「で、欠席にしたんだ」 「うん」 「そっか」 肇はそれ以上追求して来なかった。 こういう時に彼の思慮深さを再認識すると共に、そんな人が私を選んでくれた事を誇りに思う。 それから数日後、仕事の休憩中ふいに携帯が震えた。 『あ、望?』 声を聞いた瞬間、胸の鼓動が跳ね上がる。 『ごめん突然。同窓会の返事が欠席だったからさ、思わず実家に電話したら、おばさんがこの番号を教えてくれて』 …母さんが? ちょっと意外。 でもまぁ彼とは顔見知りだし、しかも幹事なんだから教える流れになっちゃうよね。 この世界で生きると告げた時から両親とは溝ができた。 上京し、一度も帰郷していないけれど、近況報告の手紙だけは欠かしていない。 「わざわざ悪いね。久しぶり、田沼」 普段意識して変えている声音ではなく、地声で挨拶。 一見ぶっきらぼうだけれど優しくて男らしい田沼は男女問わず人気があった。 私はその中で特に親しくさせてもらっていた友達の一人だ。 …正確には、必死にその関係性を死守していた。 「実はその日仕事でさ。前々から決まってた重要な案件だからキャンセルはできないんだ」 『あ、おばさんに聞いた。ヘアメイクやってんだって?』 「…うん」 『すげーよなー』 「そんな訳だから、皆によろしく言っといて」 肇が傍にいない時で良かったと、しみじみ思う。 今の私は明らかに浮かれているだろうから。 一度は好きになった人だもの。 甘酸っぱくも、愛しい思い出が溢れ出してしまうのは止められない。 だけどそれはこの場限りの感情だから。 今は一番大切な存在になった肇を、悲しませるような事はしない。 いつか彼に見せよう。 ほとんど開く事のなかった卒業アルバム。 プラタナスの木の下で。 田沼に肩を抱かれ、カメラに不器用な笑顔を向けている、学ランを身に纏った自分の姿を。
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