カムフラージュ

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「なぁ、俺のどこが良かった訳?」 図書室のカウンターの内側で、新着本に透明シートを貼りながら、3日前に彼氏になりたてホヤホヤの加藤君が問いかけて来た。 「えー?何よ突然」 そんな彼を、カウンターに肘を着いて立ち、ぼんやりと見守っていた私はドキリとしつつ返答する。 「だってさ、林の事狙ってた奴は他にも大勢いて、玉砕覚悟で告白したんだよ。それなのにあっさりOKもらえちゃったからさ。何だか未だに信じられなくて」 「んー、加藤君、すごく真面目だもん」 私は自分の気持ちを素直に口にした。 「図書委員ってやる事いっぱいで、普通の人は嫌がるでしょ?でも、加藤君すごく楽しそうだから」 「あ、うん。俺本が好きだからね。やりがいあるよー」 「ふふ。そういう所が、良いな~って思ったんだ」 委員長を任され、誰よりも、図書室で過ごす時間が長いであろうあなたが。 その時ふいに、カウンター奥の扉が開いた。 「こら、お前ら。司書室まで話筒抜けだぞ」 「あ、先生」 瞬間、胸の鼓動が跳ね上がる。 「いくら他に人がいないからって、私語は慎むように」 「す、すみません」 「どうでも良いけどカバーかけ終わったのか?」 言いながら、先生は加藤君に近付き、手元を覗き込んだ。 「あ、はい」 「じゃ、俺が配架してくるから後片付けしとけ。そろそろ下校時間だぞ」 「分かりました」 慌ただしく動き出す加藤君を横目に、私は本を抱えて歩き出した先生の後にさりげなく続いた。 「それ手伝いましょうか?」 「え?……いや、良いよ」 一瞬立ち止まってチラッとこちらに向けた視線をすぐに前に戻し、先生はさっさと歩き出す。 そんなそっけない態度にめげる事なく、後を追いかけながら言葉を続けた。 「大変ですね。司書の人は4時までだから、先生が戸締まりしなくちゃいけなくて」 「別に。これも現国教師の宿命だから。しかも俺が一番下っぱだしな」 そうなのよね。 今年わが校に赴任した、大学出たての先生。 ……もっと早くその事実に気付いていれば、私も図書委員を選んだのに。 でも、良いの。 隠れみのは手に入れたから。 まだこの思いを、伝える訳にはいかない。 誰にも気付かれてはいけない。 先生に、迷惑がかかってしまうから。 あと数ヶ月の辛抱。 教師と生徒じゃなくなるその日まで…… タブーな恋心は、密かに上手に、隠しておかなくちゃね。
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