この胸の思いを

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「きゃー!谷君、久しぶりぃ!」 「思ったより元気そうじゃん」 校門を入ってすぐのプラタナスの木の下に集まっていた皆は、純也の姿を見るなり歓声を上げた。 「つーか、卒業して2年で同窓会なんて早すぎだろ。しかも学校で待ち合わせって」 それらの声に、純也は苦笑しつつ答える。 『でも、成人したし、区切りとしては良いんじゃない?お酒も飲めるしね』 純也に向けて放った私の言葉に、返事はなかった。 ま、いつもの事だけどさ。 高校在学中に付き合い始め、同じ大学に入学したあの日から、彼のアパートに転がり込んだけれど、徐々に私への関心は薄れて来たようだった。 そろそろお別れしようかとも思うんだけど、中々踏ん切りがつかなくて。 実家には戻れないし。 もう会話が成り立たなくなってしまった両親の元にいるのは、とても辛いから。 あまり広範囲には動き回れず、結局純也の傍で過ごす事になってしまう。 久々の再会に未だ興奮冷めやらぬ同級生達の輪から離れ、私は何となく校舎に沿って奥へと進んだ。 予感があったのかもしれない。 体育館裏で、ぼんやりと空を見上げ、佇む彼を目にしても、あまり衝撃は受けなかったから。 『先輩…』 思わずかけてしまった声に反応し、彼が振り向く。 「東?」 先輩が目を見開いた。 だけど私の方がその百万倍驚いた。 『嘘。私のこと、分かるんですか?』 「分かるよ。全然変わってない」 言いながら、先輩は私に近付いた。 「後輩から、お前のクラスが学校に集まるって聞いて、思わず来ちまったよ」 そのまま肩を抱こうとしたけれど、私はその手をすり抜けてしまう。 『ごめんなさい。私、大学の入学式の日に…』 「うん、知ってる。信号無視のバイクだろ?」 先輩は瞳を潤ませた。 「ごめんな。お前を残して上京なんかするんじゃなかった」 『…ダメですよ。先輩は、俳優になるのが夢なんだから』 「行かないで」とは言えなかった。 そして、追いかける勇気も、待ち続ける自信もなかった。 だから私はこの場所で先輩に別れを告げて、その後、純也の気持ちを受け入れたのだ。 『会えて嬉しかった…』 踏ん切りがつかなかったのはきっと、先輩の事が気がかりだったから。 でも、もう決断しなければ。 これは募らせてはいけない想い。 運命の相手ならば、またいつかどこかで巡り逢える筈だから。 だからその日まで。 『さようなら、先輩』 体温を感じる事はできないけれど。 私は背伸びをすると、先輩の唇に、そっと、この世で最後のキスをした。
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