いつも好きずっと好き

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とうとうこんな日が、来てしまったか。 「って訳で、昨日無事結納を済ませたよ」 「子どもの頃から知ってる人達とそういう儀式をするのって、何か妙に照れちゃうよね」 幸せオーラ全開の視線を交わし合いながら、対面に座る彼らは言葉を発した。 「で、でも、ケジメとしてそれは必要だよ」 私は内心の動揺を押し隠し、あえてテンション高めに返答する。 「二人とも、おめでとう!」 成人してからすっかり御用達となった居酒屋の個室にて、私は幼なじみの幸と達哉から、婚約の報告を受けていた。 もう20年近いつきあいで、当然それぞれの親とも顔なじみ。 共に成長して行く過程で二人はお互いの恋心に気付き、交際を始め、そしてめでたく結納まで漕ぎ着けたという訳だ。 ……恋人宣言された時もショックだったけど、今日の比じゃないな。 やっぱ「お付き合い」と「婚約」とでは、その重みに雲泥の差がある。 私にとっては最後通牒を突き付けられたようなものだもの。 私だって、ずっと、好きだったのにさ……。 「お前もさ、早く良い相手見つけろよな~」 プレッシャーから解放されたからなのか、いつになくご機嫌に酔う達哉のその能天気な笑顔、言い草がこの上なく癪に触ったけれど、私は曖昧な笑顔で誤魔化した。 何よ。 人の気も知らないで。 「明日は仕事だし、そろそろ切り上げよう」という幸の言葉を合図に、本日の飲み会はお開きとなった。 「先に会計してるから、お前ら後から来いよ」 普段は割り勘だけど、今日は達哉のおごりという事になっていたので、その言葉に甘え、私達はメイク直しをしてから部屋を出る事にする。 「4月になっても夜はまだまだ冷えるよねー」 何でも手早の幸は先に立ち上がり、壁際の洋服かけに近付きつつ言葉を発した。 私も遅れて立ち上がり、ジャケットに袖を通していた彼女を、後ろから強く抱き締める。 「真弓?」 「何か、今さらながらに感慨深くなってきちゃってさ……」 震える呼吸を整えて、続けた。 「ホントおめでとう、幸」 「ふふ、ありがと」 「結婚しても、今まで通り仲良くしてね」 「当たり前じゃない」 「ずっと、‥でいさせてね…」 「え?」 聞こえないように、わざと無声音で囁いた。 幸を苦しめたくはないから。 『好き』 伝わらなくても良いの。 彼女の背中でそっと、自己満足の、愛の告白。
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