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Chapter1
水晶の水槽に包まれているのに、翼は日ごとに黒く染まっていく。
誰だよ。天然物の天使なんて言ったのは。高い金出したのに大損だ。
純白なら、片翼だけでも数ヶ月は食っていけるのに……このまま真っ黒になったら、燃えるゴミにすらなりゃしない。
「天然物は永遠の純白です。水晶の水槽で九十九日育てれば、七枚の翼が生えることでしょう。叶える願いは翼の数だけ。世にも貴重な七枚翼ですぞ」
天使売りは儲かると教えてくれたのは、ミハイル・G・ベイカーだった。
天使の所持と売買は犯罪だ。育てきったら願いを叶えてくれる存在なんて、悪人が使ったら何が起こるかわからない……それ故、天使を求める者が多いのも現実だ。悪人善人見境なく。
水槽の中の天使が悪戯なウインクをした。餌をねだっているようだ。
妖精と比べて、天使の餌は手間がかかる。ヒトの残り物と多少の悪戯があれば満足する妖精とは違い、高貴で上品で面倒な種族。それが天使。
まずは朝焼けの光を浴びた花。天使によって好きな色は決まっておるから、最初は色々試してみるしかない。中には人間の目に映る色が気に食わず、何も食べずに死ぬ天使もいるとかいないとか。
幸いうちのこいつは、紫がかった青が好みらしい。お気に入りはアサガオやアヤメ。たまのご馳走に、遠くの国のキキョウ。
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