Chapter5

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 そこには空に向かって伸びる煙があった。  雲の隙間から漂うメープル・シロップの香り。足元は柔らかな草原。空を舞うのは純白の翼の天使達……それ以外には何も、何も見当たらない。 「種、植えようよ」  ティーは俺の手を取ると、袋から種を出して手渡した。  軽く土を掘り、一粒ずつ種を埋めていく。終わったら少し離れた場所にもう一粒。それを三度、四度、五度……繰り返す度に、地面には小さな窪みが生まれていく。時が経てばこれが葉になり、また茶となって天に登るのだ。 「私達も、いつか天国に行けるのかな? 」 「悪人は地獄に落ちるんだろ」 「そうだね。砂糖は天使を育てた。私は許可なく店を開いた。ミハイル・G・ベイカーは息子さんを蘇らせようとした……みんな(ワル)だ」  ティーがけらけら笑って、草の上にごろりと寝転んだ。 「ねぇ、向こうはどうなっただろうね」 「虹色天使を放っておくわけないだろ。あらゆる手段を使ってでも、どこかの誰かが奪おうとするだろうな……戦争でも始まったかもしれない」  遠くから何かが爆散する音がした。  きっと虹色天使を収容していた施設が破壊されたのだろう。 「それじゃ私達、ここでしばらく待ってようか」 「それがいい。皆が必死こいて虹色天使を求めている間、俺達だけはここでのんびりしてようぜ……相当な(ワル)だな」  遠くから誰かの叫び声が聞こえた。  きっと虹色天使を奪い合って争いが始まったのだろう。 「悪いね……本当に悪いや」    俺は虹色天使という爆弾を育てて、ティーと安全な場所に逃げてきた。  死んでも天国には行けないかもしれない。だけどもしそうなったら、植えた木で茶を沸かそう。それから煙に乗って、無理やり天国まで登ってやろう。   「さてと。あの街が落ち着くまで、しばらく待つとするか」 「少しだけお茶余ってるけど。沸かす? 」 「あぁ……ヒサナじゃないよな? 」 「林檎だよ‼︎ 」  メープル・シロップの香りが立ち込める中。  俺達が飲み干した茶は、いつもよりも甘い「罪の味」がした。
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