21人が本棚に入れています
本棚に追加
そこには空に向かって伸びる煙があった。
雲の隙間から漂うメープル・シロップの香り。足元は柔らかな草原。空を舞うのは純白の翼の天使達……それ以外には何も、何も見当たらない。
「種、植えようよ」
ティーは俺の手を取ると、袋から種を出して手渡した。
軽く土を掘り、一粒ずつ種を埋めていく。終わったら少し離れた場所にもう一粒。それを三度、四度、五度……繰り返す度に、地面には小さな窪みが生まれていく。時が経てばこれが葉になり、また茶となって天に登るのだ。
「私達も、いつか天国に行けるのかな? 」
「悪人は地獄に落ちるんだろ」
「そうだね。砂糖は天使を育てた。私は許可なく店を開いた。ミハイル・G・ベイカーは息子さんを蘇らせようとした……みんな悪だ」
ティーがけらけら笑って、草の上にごろりと寝転んだ。
「ねぇ、向こうはどうなっただろうね」
「虹色天使を放っておくわけないだろ。あらゆる手段を使ってでも、どこかの誰かが奪おうとするだろうな……戦争でも始まったかもしれない」
遠くから何かが爆散する音がした。
きっと虹色天使を収容していた施設が破壊されたのだろう。
「それじゃ私達、ここでしばらく待ってようか」
「それがいい。皆が必死こいて虹色天使を求めている間、俺達だけはここでのんびりしてようぜ……相当な悪だな」
遠くから誰かの叫び声が聞こえた。
きっと虹色天使を奪い合って争いが始まったのだろう。
「悪いね……本当に悪いや」
俺は虹色天使という爆弾を育てて、ティーと安全な場所に逃げてきた。
死んでも天国には行けないかもしれない。だけどもしそうなったら、植えた木で茶を沸かそう。それから煙に乗って、無理やり天国まで登ってやろう。
「さてと。あの街が落ち着くまで、しばらく待つとするか」
「少しだけお茶余ってるけど。沸かす? 」
「あぁ……ヒサナじゃないよな? 」
「林檎だよ‼︎ 」
メープル・シロップの香りが立ち込める中。
俺達が飲み干した茶は、いつもよりも甘い「罪の味」がした。
最初のコメントを投稿しよう!