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Chapter2
一つ路地裏に入れば、そこはもう天使売りだらけだ。
妖精売りの取り締まりが厳しくなってから、明らかに天使売りは増えた。大半は質の悪い養殖か、羽が黒く染まった出来損ないだが。
「願いをー、叶えるー、天使はいらんかねー」
「うちのは翼が多いよー。一枚につき、願い一つだよー」
天使売りは犯罪だと言うのに、この路地では客引きの声が絶えない。
質の悪い天使だと、願いを完璧に叶えられなかったり、暴走して事故を起こしたり。とにかく厄介なのだが、稀に天然物と同じ結果になることがある。
その博打に賭けて、安い値段の天使を買う奴は少なくない……ミハイル・G・ベイカーは失敗して、片目の視力を失ったそうだ。
俺が欲しいガラスの器は、ティーの店にしかない。広告塔の看板の下、床屋と牛乳屋の間にある、小さな茶色い屋根。賑やかな大通りの一角で、ティーは一人ぼっちの店をやっている。
カウンター席に座り、メニューをさっと眺め、いつもの林檎の紅茶とガラスの器を注文する。ティーは手際よくカップを温め始めると、茶葉の入った瓶を俺に見せてきた。
「ラバジェのお茶はどう? 新作だよ」
「……この匂い、ヒサナじゃないのか? 」
「ちっ。バレたか」
「喫茶店なんてやめて、小物屋に専念しろよ」
それが出来ないことを知っていながら、俺はティーに嫌味を言った。
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