Chapter4

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Chapter4

 ミハイル・G・ベイカーが言うように、それから天使の翼はみるみる虹色に変わっていった。  上から赤、オレンジ、黄色、緑、黄緑、水色、青、紫。非対称の翼は鮮やかな色に染まり、水晶の水槽の中を美しく彩っていた。 「時が来たわ」 「願いを叶えてくれるのか」  そしてある日の晩、初めて天使が口をきいた。  透明な、ただただ透明な声だった。 「ここまで育ててくれたことに感謝するわ。七つまで。七つまでなら、どんな願いでも叶えてあげる」  天使が叶えられる願いには規則がある。  とは言ってもたった一つ「願いを増やすことは出来ない」だけだ。それ以外であれば、どんな形であれ願いを叶えてくれる……最も俺も初めての経験だから、割と緊張している。 「言っておくけど、私は他所の天使みたいなヘマはしないからね。願いは具体的に、言った通りに叶えてあげるから。巨万の富でも永遠の命でもいいわ。死者の復活とか時間逆行とか、本当になんでもいいの」  水晶の水槽の中で、天使はけらけらと笑っている。  まるで俺に大きな願いを言わせようとしているかのように。より大きく、より壮大で、よりとんでもない願いを。 「それとも私を売り払う? きっと高く売れるでしょうね。私に巨万の富を願った方がいいと思うけど、七つも叶えたい願いがないならそれもありよ? 」  天使は思っていたよりも喋るものだった。G・ベイカーはこんなことは話していなかったから、虹色天使特有の行動なのかもしれない。  ……だけど俺が叶えたい願いは一つだけだ。それ以上はいらないし、望めば望むほど足りなくなりそうだ……「七つも」が「七つしか」に変わる前に、早く誰かに売り払ってしまおう。 「ローマンシャンまでの旅費をくれ。片道切符を二人分」 「そこまでだ」  扉を蹴破って現れたのは、大量の警察官だった。
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