イントロダクション

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第18話 イントロダクション:eine Einführung (テープの擦過音。紙の上を鉛筆が走る音) (男)えー、テス、テス…はい、OK  それでは始めたいと思います。よろしいですか? (女)ええ。わたしはリラックスしているつもりですよ。本社でプレゼンしている最中に左右の履物がちぐはぐなことに気付いた時ぐらいには。 (男)あははは…それは頼もしい。  これからする質問のうちいくつかは、貴女にとって辛い記憶や苦痛をよびさます可能生があることを、くどいようですがもう一度ご確認下さい。 (女)人は泣きながら生まれ、悔やみながら生きて、惜しまれて消えていくもの…いつ後悔してもなきにひとしく、未來に怯えたとてはじまらない。 (男)シェイクスピアですか? (女)ううん、今度兄が上演する芝居のセリフよ。自分で初めて脚本まで書いたの。その言葉を聞いたら慢性自信喪失症から立ち直れるかも。 (男)確か、ネダーランダー劇場にかかる予定でしたね。前売りはプラチナチケットと化して いるとか。同僚がファンでして、どうにか手を尽くして一枚手に入れたと狂喜乱舞しておりました。ニューヨーカーあたりの記者でしたらそんな苦労も無いのですが…  脱線してしまいましたね。では、お願い致します。  貴女の御氏名と御出身を。 (女)ダニエラ=フェルダーです。もし入れてくださるなら、「フォン」と。生まれはステイツだけど、まだ オーストリアには地所があるから。戦争の後の手続きって面倒よね。権利は主張しないと消えてしまうものだからといって…  あら、先走っちゃったかしら? (男)いいえ、マドマゼル。脱線は大いになさってください。その方が内容が充実したものになります。 (女)私、上司からもアドリブが多いってダメ出しされるのよね。実力が伴って いないのに、すぐ調子に乗ってしまうから。…あらそれ、よく見たらうちの商品なのね? (男)日本製は安くて電池がよくもつので重宝しております。いえ、良い意味で、ですが。 (女)分かりますよ。安いという点で売り込むのは大変なんですよね、なかなか。東洋人の会社を胡散くさく思う悪習が、この「自由の国」ですら根強くてイラッとすることもあって。 (男)戦争中は、ゲルマン系の苗字というだけで石を投げられたそうですね。知り合いの話ですが。 (女)それだけじゃ済まなかったですね。男の子にはすれ違いざまスカートを引っ張られてからかわれるし、女の子には仲間外れにされておままごともお茶会も誘われなかったし。家族が多かったから寂しくはなかったんですが、でなければ本当に辛かったと思いますよ。 (男)ご家族は、えーと… (女)父、母、兄が3人、姉が2人、弟が1人、私… (男)9人でいらっしゃいましたか。 (女)いえ。10人です 。家族はその人を入れて10人。血は繋がらないのですが、とても大事にされています。 (紙をめくる音) (男)戸籍には入っていないのですね…お名前を。 (女)イアン大おじさま。みんな大おじさま、って呼んでいます。 『ニューヨーク・サン』コラムニストの録音テープより ラベル:1962,6,15
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