レンタル彼氏が元カレだった件

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ドアは蹴破られたのか枠ごと崩れ、そこには鉄の棒を持ったソウが立っていた。 ―――颯人、なの・・・? ソウの服装はレンタル彼氏として別れた時のままだ。 息を切らしていて、汗がポタリと落ちた。 どうやってここを突き止めたのかは分からないが、全速力で駆け付けたのは間違いないだろう。 「俺のリオを返してもらうよ」 「そ、その声! さっきの電話の男だな! どうしてこの場所が分かった? というより、来るの早過ぎないか!?」 田中は慌ててナイフをソウに突き出し戦闘態勢を取る。 だが手はブルブルと震え、焦点が合っていない。 「早いも何も、電話をしている時には既にここへ向かっていたから」 「お前はやっぱり」 「リオの彼氏だよ」 ―――・・・まだ、レンタル彼氏を続けているの? 梨生奈の考えも的外れなものだったが、現状冷静に判断などできなかった。 だが付き合っていた頃は自分のことを“梨生奈”と呼んでいたため、今の彼がソウなのか颯人なのか分からないということだ。  正直どちらでもいいだろう。 今の彼がどんな立場であろうと、助けに来てくれたことに変わりはないのだから。 「いや、お前はリオちゃんの彼氏ではない。 彼氏とは別れたと言っていた」 「それ、本当にリオの口から出た言葉?」 「・・・」 「どうしたらリオを解放してくれる? 今の彼女にこれ以上のスキャンダルは避けたい。 もう金輪際近付かないと約束できるなら、穏便に済ませたい。 もしできないなら・・・」 ソウは緊張感を高めつつ、鉄棒を握る力をグッと強めた。 「・・・解放は絶対にしない」 「どうして?」 「そもそもお前が悪いんだ。 お前のせいで、リオちゃんはアイドルを辞めることになったんだろ!」 「・・・確かに、それは否定できないな」 「だろう!? だから、そんな奴にはリオちゃんを任せられない! リオちゃんを幸せにできるのは、この僕だけだ!」 ソウは田中の言葉を聞き呆れたように言う。 「どうやって? この様子だと、人の人生を守れる程の力なんてないだろう? 自分の欲望を自分勝手に叶え、そこに相手のことを思いやる気持ちがない」 「ぼ、僕は応援で・・・」 「グッズを集めるのはただ自分がほしいから。 これだけ応援している、これだけお金を使っている、そんな自分に酔っているだけだ」 「僕は・・・! 僕はッ・・・」 「生活を切り詰め、時間を費やし、人生を犠牲にしても決して報われることはない」 「お前が・・・! こそこそとリオちゃんと付き合っていたお前が、綺麗事を言うなぁッ!!」 田中はそう叫ぶとナイフを握り締め、ソウに向かって突進した。 「ダメッ!」 梨生奈の叫び声も虚しく田中は止まらなかったが、鉄棒を持っているソウに簡単にいなされてしまう。  「俺だってアンタと大して変わらないさ・・・。 本当はリオにもう一度アイドルとして、返り咲いてほしいんだろ?」 ソウの言葉を聞き、梨生奈は先程言っていた田中の言葉を思い出した。 『アイドルを辞めたことが許せないんだ』 『殺して、僕だけのアイドルになってもらう!』 確かにそう言っていた。 「・・・無理だ。 あの会社は決してリオちゃんを許さない。 僕がずっと応援してきた時間も、何もかもがもう無駄に・・・」 「リオを恨んでいるわけではないだろ?」 「当たり前だ。 本当は彼氏がいるかもしれないなんて、誰だって考える。 その上で応援するのが本当のファンだ。 僕は、ただアイドルのリオちゃんが好きなだけだから」 「だってさ」 そう言ってソウ――――颯人は、梨生奈に目を向けた。 梨生奈は困ったように首を振る。 「え、え、無理だよ・・・。 今更アイドルに復帰なんて、どこも入れてくれないだろうし・・・」 「リオって、俺の父親が大きな音楽会社を経営しているって、知っているよね?」 「ッ・・・」 颯人の父が音楽会社を経営しているのは知っていた。 つまり、やはりソウが颯人であると確定させた言葉だった。 「だったら、どう? 俺の父親の会社で、また一からソロの歌手を目指してみるっていうのは」 「・・・そんなこと、できるの?」 「リオの歌は歌手と比べてもそん色がない。 それは他でもない俺が保証する。 だから大丈夫だよ。 俺の紹介で、父親に相談をしてみるから」 嬉しく思う反面不安もあった。 「でも・・・。 颯人と颯人のお父さんに認めらても、世間は私のことを受け入れてくれないんじゃ」 恐る恐る言った彼の名前。 だけど彼はその名前を否定することはなかった。 「彼みたいに、リオのことを心から愛してくれるファンだったら応援してくれると思うよ」 そう言って田中を見ると、嬉しそうな顔をしてブンブンと首を振っていた。  「・・・なら、やってみようかな。 新しい道に、踏み出してみたい」 「よし決定」 颯人は笑って田中のことを見る。 「ということで、リオのことを解放してくれる?」 「・・・」 「ここは、君の家?」 「僕の秘密基地」 「そっか。 もしリオの歌手デビューが決まったら、いち早く君に伝えにここへ来るよ。 それでいい?」 「・・・ッ! うん!」 「あと、ドアを壊してしまってごめん。 弁償するから」 それに田中は納得し梨生奈は無事解放された。
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