レンタル彼氏が元カレだった件

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外で昼食をとった後、二人は近くの水族館へと来ていた。 「あ、丁度イルカショーが始まるんだって!」 「折角だから見て行こうか」 心を切り替えた梨生奈は、今日という日を素直に楽しんでいた。 水族館へ誘ってくれたのはソウからで入館料含め全て奢ってくれるが、後から経費として請求されるということを知っている。 ―――お金に余裕があるわけじゃないけど、これくらいなら・・・。 できればサングラスでいたいため室内は避けたかったが、上手く断る理由も思い浮かばすその提案に乗ることにした。 ―――あまり気を張らなくてもいいのかもしれない。 ―――サングラスの件も心配だったけど、何か事情があるって察してくれたのか何も言ってこないし。 イルカのショーを見るために室外へ出ると、目の前で小さな男の子が派手に転んだ。 「あッ・・・」 梨生奈はそれを見て慌てて駆け寄ろうとする。 だが梨生奈よりも先にソウが行動を起こしていた。 ソウは転んだ子供を起こし汚れを払いながら怪我がないかをチェックする。 「僕、痛いところはない? ・・・そっか、よかった。 よく泣かなかったね。 偉い偉い」 涙目で必死に耐える子供を見てソウは笑顔で彼の頭を撫でた。 その姿を見て、かつての颯人の姿と被り梨生奈は少し切なくなった。 ―――・・・颯人もそうだった。 ―――子供が好きで、いつも優しく接していたよね。 ―――そんなところも私は好きだったな。 正直颯人の悪いところなんてないくらいには彼に惚れている。 フラれた今でも彼の欠点は思い出せない。 まさに恋は盲目であると言えるが、悪いところもよく見えてしまっていた。 「りぃちゃん?」 「あ、ごめんね。 早く席を取ろう」 心配そうに顔を覗かれたため必死に笑顔を作りデートを再開した。 内心モヤモヤしていたがショーが始まってしまえば切り替わる。 この他愛のない時間をソウも望んでいるのだろう。  だとしたら壊したくない。 ソウを颯人と比べないようにし、水族館の時間を楽しんだ。 それから館内をゆっくりと回り最終コーナーのクラゲの水槽までやってきた。  奥へ進むと土産屋があり水族館デートは終了する。 ―――今何時だろう? ―――・・・16時前かぁ・・・。 ―――このデートは20時までだから、まだ時間は結構あるなぁ。 ―――プランはショッピングだけしか考えていなかったし、残りはどうしよう・・・。 考えていると手を引かれた。 「りぃちゃん、おいで。 見やすいところを見つけたよ」 自然と誘導されたのは、端の方だが最前列だった。 水槽を見上げる梨生奈を守るように、ソウは後ろから抱き着くような形をとっている。 身体が密着し、集中してクラゲを見ることができなかった。 ―――やっぱり今日、私は変だ・・・。 ―――レンタル彼氏が元カレの颯人っていうのもあるけど、私の心はずっと乱れっぱなし。 ―――すぐに悪い方へ考えて落ち込んだり、だけど少しでも優しくされると喜んだり。 ―――こういうことを他の子にもしているのかなって思うと嫉妬したり、その反面触れられるだけでもドキドキしたり。 ―――今日一日、私は一人でずっと百面相を繰り返しているんだろうな・・・。 颯人だとあまり考えないようにしていても、ふと思い出して辛くなる。 ―――感情が、忙しい・・・。 何故だか涙が出てきた。 心がなかなか安定しない自分が情けなく感じたのだ。 フワフワと揺れるクラゲの水槽の穏やかさのせいなのかもしれない。  感傷的になり、少しの間気付かれないよう涙を流していると、ふっと密着していたソウの身体が離れた。 そのまま手を引かれ人ごみから離れる。 少し明るいところまで来ると梨生奈の顔を覗き込んできた。 「泣いてるじゃん! 突然身体が震え出したから、どうしたのかと思って心配したよ」 その言葉に否定するよう首を振る。 「私、泣いてないよ」 必死に震える声を押し隠す。 「本当に? ・・・何か事情があるのかなと思って今まで言わなかったんだけど、どうしてサングラスを取らないの?」 「それは・・・」 最初は元アイドルのリオだと周りに気付かれないようにするためだった。 だけど今は、自分がソウの元カノだとバレないためという理由の方が強い。 「サングラス、取りなよ。 僕はりぃちゃんの目を見て話したい」 「ッ・・・」 そう言ってソウは梨生奈がかけているサングラスに手を伸ばした。
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