レンタル彼氏が元カレだった件

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しばらく今の時間を楽しんでいたが、ようやく周りが騒がしいことに気付いた。 「ねぇ、あの二人ってやっぱり・・・」 「いや、絶対にそうだよ!」 暗い館内でフラッシュをたかれたら流石に気付く。 梨生奈はサングラスを取り顔を隠していないため、すぐに元アイドルのリオだとバレ水族館の中は大騒ぎになっていた。 ―――ッ、そうだサングラス! ―――もうアイドルじゃないと思って油断してた・・・。 今更サングラスをしたところで顔を隠しても遅かった。 寧ろ逆に“本物”だと宣言してしまったようなものだ。 写真は撮られSNSが普及している今では、既に写真が拡散していることだろう。 「リオってさ、アイドルなのに彼氏がいたから辞めさせられたんでしょ?」 「今でも呑気に男とデートをしているとか、全然反省していないじゃん」 「解雇されても仕方ないよね」 彼ら彼女らは小声で話しているつもりかもしれないが、全て梨生奈の耳に届いている。 寧ろわざと聞こえるように言っているのかもしれない。 ―――最悪だ・・・。 ―――こんな状況で、騒ぎになるなんて・・・。 俯いているとソウもマズいと思ったのか、水族館から出ることを提案した。 「騒がしくなってきたね。 ひとまず、ここから出ようか」 手を握られ縮こまりながら必死に彼の背中を追っていく。 だが多くの人に阻まれ全然進まなかった。 「参ったな・・・」 ソウが呟くと店員が人ごみを掻き分けこちらへやってきた。  「お客様、誘導致しますね」 恐る恐るそう言う店員に代わりとなってソウが感謝を伝える。 「ありがとうございます。 今すぐに出ますので」 店員に誘導され、何とか出口まで辿り着くことができた。 だが出口へ来ると情報が広まっていたのか、水族館の中以上に人が集まってきていた。 「ソウさん、ごめん。 私のせいでこんな・・・」 「りぃちゃんのせいじゃないよ、謝らないで。 というより、サングラスを取った僕が悪い」 その言葉に梨生奈は首を振る。 折角のデートの日だというのに不注意だった自分のせいだ。 今日は以前のオフの時よりも気が緩んでいたのには間違いない。 「んー、ここも駄目だな。 人がいない場所へ移動しようか」 ソウは自分が着ていた上着を脱ぎ、梨生奈の頭に被せる。 「これで顔でも隠していて。 僕がりぃちゃんの手を引くから、絶対に離れないでね」 今は彼のことを信じ、背中を追いかけることしかできなかった。 それでも人は付いてくる。 歩くたびに注目され休まる暇がない。 そこでソウは細い道へ入り立ち止まった。 「ソウさん・・・?」 見上げると、ソウは追いかけてきている人たちをじっと見据えている。 「君たち、もう付き纏うのは止めてくれるかな? 盗撮も駄目だよ。 僕たちは完全なプライベートなんだ、邪魔しないでほしい」 ソウがキッパリと言ってくれたおかげで、渋々だったが人々は退散したようだった。 「・・・ソウさん、ありがとう」 「まだ気を休めるには早いよ。 そうだね、誰にも邪魔されないところへでも行こうか」 そう言って携帯を取り出し電話をし始めた。 「もしもし? 今からそちらへ伺いますが、部屋は空いていますか? ・・・はい、では予約をお願いします。 時間は三時間くらいで・・・」 梨生奈は彼の行動を黙って見ていた。 「はい、では失礼します」 電話を終えると梨生奈に向き直る。 「行こうか。 ごめんね、頼りのない僕で」 「そ、そんな! 迷惑をかけているのは、私だから・・・」 ソウに手を取られゆっくりと歩き始めた。 そこで梨生奈は疑問を抱く。 ―――・・・流石に、もう私だって分かっているよね? ―――騒動になった原因も分かっているはず。 ―――だから、私はただの梨生奈のそっくりさんじゃないって、気付いていると思うから・・・。 ―――そろそろ、それを打ち明けてもいいのかな? ソウは仕事とプライベートは完全に分けているのかもしれない。 というよりここまで何も言ってこないのだからきっとそうだろう。  いい答えが返ってこないと分かっていても、自分が梨生奈であるときちんと認識しているのか気になっていた。
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