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すると不思議な事に、先程までいたはずの少女の姿はどこにもなく、忽然と消えている。慌てて辺りを見渡したが、少女どころか人の姿すら誰もなかった。
叶恵はまるで、キツネかタヌキにでも抓《つま》まれたような気分になる。
「おかしいねえ・・。」
一人ポツリと呟いて、店の中に戻ろうとすると、ちょうど貴志が歩いて帰ってきた。
「ただいま。どうしたの? 変な顔して。」
叶恵は、舌打ちして言い返す。
「変な顔は生まれつきだよ。放っておいておくれ。」
「何か、機嫌悪いなあ。」
貴志が店の入口に入り、続いて叶恵も中に入り、二人は店の奥へと進む。
「たった今ね、そこに女の子がいたんだけど、見かけなかったかい?」
「いいや。女の子なんて、すれ違わなかったけど。」
貴志は、居間へと上がり、そのまま台所へと行った。叶恵も続いて居間に上がる。
「黒い服を着た女の子だよ。」
「黒い服も赤い服も、女の子自体にすれ違っていないよ。」
そう答えながら、貴志は冷蔵庫から麦茶の入った容器を取り出した。納得がいかず、考え込む叶恵。
「おかしいねえ。」
麦茶をコップに注ぎながら、呑気そうに貴志が言う。
「幽霊でも見たんじゃないの?」
「お前も知ってるだろ。私は元々、日頃から霊を見ているんだから、現実の人間と間違うはずないよ。あれは、確かに人間だった。」
貴志は、一気にコップの麦茶を飲み干した。
「じゃあ、幻を見たんじゃないの?」
「幻?」
叶恵は、まだ府に落ちないといった感じの顔をする。
「ほら。タコの化身だよ。毎日タコを焼いてるから、タコが人間の姿になって、化けて出てきたんだよ。」
「はぁ⁈」
ますます、ムキになって貴志を睨みつける叶恵。それでも貴志は、ふざけてみせた。
「タコのお化けなんて、怖すぎる〜。」
「こら、貴志!」
貴志は、笑いながら、二階へと逃げ去っていく。
居間に残った叶恵は、首を傾げながら、自分の肩を揉んだ。
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