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そこで、ちょうどリビング入口ドアが開き、真理と英彦が入ってきた。
「ただいま〜。今日は早上がりで仕事終わったわ。」
「お帰りなさいませ。」
真理と英彦は、リビングにいた宗一郎と葵の様子に気が付き、尋ねてくる。
「あら。今日は二人とも早かったのね。」
「今日は、皆さん早い帰りで、一緒になりましたね。」
真理は、葵の方に近づいてきて、話しかけた。
「葵。今日は学校どうだった・・・? 何? どうしたの? 葵。何で泣いてるの?」
葵は、首を横に振る。
「本当に、大丈夫なの?」
心配そうに、葵を見つめる真理。
その時、突然、葵がその場に立ち上がった。
その身体つきや格好、見た目は葵のようだが、まるで別の人物のように話しはじめた。
「・・あの日、私は一人で展望台に行った。仕事の疲れやストレスなどもあり、気分転換する為に登ったの。そこから見える景色は、いつ見ても心を癒してくれた。そして、その後、誰かが展望台を登ってきたの。」
話しを黙って聞いている宗一郎。
真理は、困惑して立ち上がった。
「何? 何を言ってるの、葵。」
心配そうに、入口付近で見ている英彦。
立った状態の葵は、少し俯き加減で、そのオーラと口調からは殺気に似たものを発していた。
「私は、思い出したのよ。あの時、展望台で・・・・。」
あの日の回想シーン———————。
展望台の頂上で、景色を眺める明日香。
その時、突然背後から来た人物に、両手で首を掴まれた。
必死に抵抗する明日香。
首を絞められながら、上半身が塀を越え落ちそうになっている。
もがきながら、潰れた声で明日香が言う。
「・・助けて。・・殺さないで。」
そして、叫び声とともに、明日香は展望台から落ちていった。
—————————。
回想シーンから、現実に戻る。
あの時の話しを終えた葵が、リビングに立っている。
「私は、見たのよ。あの時、私を殺したのは、・・・・私を落としたのは、・・。」
宗一郎、真理、英彦は、黙ったまま、葵を見つめた。
葵は、その人物の方へ、ゆっくりと指を指す。
そして、力強く言い放った。
「あなたよ‼︎ 私は、あなたに殺されたの‼︎」
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