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葵が指した、そこには、真理が立っていた。
一瞬の出来事に静まり返っていたが、真理は突然、笑い出す。
宗一郎が困惑した様子で、口にした。
「真理が・・・。そんな、まさか。」
英彦も信じられないという顔で言う。
「まさか、奥様が⁈」
やがて真理は、いつもと違う表情に変わった。
「よく覚えていたわね。そうよ。私が邪魔者を殺したのよ。」
宗一郎が叫ぶ。
「何て事を! 何で、そんな事を?」
真理が、宗一郎を睨みながら言った。
「何で? それは、あなたと一緒になるためよ! 高校生の頃からお付き合いし、そして、20歳で結婚。そんな明日香さんが羨ましかったのよ! そして、私はふと社会人になって出会った宗一郎さんの事を好きになってしまった。でも宗一郎さんは私の事なんて知らないし、深い面識もなかった。」
真理は、落ち着いた態度で、話し続ける。
「小さなアパートで暮らす二人。私はコッソリ二人の後をつけたり、いつも遠くから見ていた。そして、どうしても宗一郎さんの事が好きだった私は、邪魔者を消せば良いという事を思いついたの。それで、あの日、明日香さんの後をつけて、一人きりだったチャンスを逃さず、殺したのよ。」
真理は、話しながら冷静だった。
「その後はもう、いかにも偶然出会ったように装って宗一郎さんに近づき、結婚した。妻だった明日香が亡くなって、その保険金が入っていた事も知り、それで宗一郎さんに自分の会社を立ち上げる事も勧めたのよ。古い中古物件だったけど、この屋敷も買って新しい生活が始まった。そして、何より私達の子供、葵が生まれた。」
話しを聞きながら、葵は震えている。
「そんな、ヒドすぎる!」
英彦が声を震わせて言った。
「ヒドすぎるって事は、私にも分かってる!
でも、・・・どうする事も出来なかった。我慢出来なかった。私にも、幸せが・・・小さな幸せでいい。幸せが欲しかったのよ。」
真理は泣きながら話す。
聞いていた葵の目から、涙が溢れていた。
「ママ・・・。」
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