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じっと黙ったままの美咲。内心、早くこの場を離れ仕事へと戻りたいと思ったが、美咲はアルバイトという立場であるし、相手は一応このスーパーの正社員でもあり、年上であった。
「だからさ、美咲ちゃん。仕事で何か分からない事や困った事があったら、いつでも俺に相談するとイイよ。」
かなり近い距離に迫ってきているせいもあり、話しながら鼻から荒い呼吸を漏らす小太り男の息が聞こえた。ツンとした汗の臭いまでもが美咲を包み込もうとしている。
また小太り男は、その服の上からもおとぎ話に出てくるタヌキのようにポコンと出っ張ったお腹が目立っていて、明らかにこの男を象徴していた。
その上で、自信有り気な表情と、カッコイイつもりの腕組みポーズをして、美咲に詰め寄ってくる。
「だから、美咲ちゃん。LINE教えてよ。連絡するから。」
ここで、いよいよ美咲が口を開いた。
「私、親しくない人や知らない人とLINEは、しません。」
それでも懲りた様子もなく、更に話し続けようとする小太り男。
「いや、だから、これから仲良くなっていくんだよ。俺のLINE、ほら教えるから。」
そう言って、ズボンのポケットに入れていた携帯電話をゴソゴソと取り出した。
その時、店内から出てきた婦人のパート店員が美咲に向かって声をかけてくる。
「美咲ちゃ〜ん。急いで、レジに入ってくれる? レジが並んできてるから。」
「は〜い! すぐ行きます!」
美咲は、元気よく返事した。やっとこの場を離れられる理由が訪れる。これをチャンスとみて美咲は、小太り男に対し、コクリと頭を下げた。
「じゃ、私、仕事あるんで。」
「あ、ちょっと待っ・・!」
慌てて引き止めようとする小太り男をその場に残したまま、美咲は店内へと走って戻って行く。
その場に一人になった小太り男は、悔しそうに舌打ちした。
「クソッ。もう少しだったのに。」
やがて、仕事へと戻っていく。
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