ケース2️⃣ 前世呪怨

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そして抱き合ったまま葵が、いや明日香が宗一郎に話しかけてくる。 「宗一郎さん。あなたは私の分まで生きて・・。そして、この葵ちゃんをこれからも守ってあげてね。」 宗一郎も、抱き合った状態のまま、明日香に話しかけた。 「・・・明日香。俺はな・・・・」 更に、明日香が話し続ける。 「この葵ちゃんも、今は前世の記憶をしっかり蘇らせているけど、私はもうすぐ、この子の記憶の片隅へと、その存在を隠してしまおうと思う。それは、この子が葵ちゃんとしての記憶と、明日香という私の記憶を重ねて持つ事により、その意識は到底耐えきれなくて人格すら崩壊してしまう。この子には、葵ちゃんには、まだこれからの未来がある。そして大人になっていくにつれて、徐々に私の記憶も薄れ消えていくと思うわ。」 宗一郎が、明日香に言った。 「そんな・・。また君が消えていってしまう。うう・・・俺も・・。」 明日香の声が聞こえる。 「もう時間がない・・。宗一郎さん。本当に、ありがとう。わたしは本当に、幸せだった。おかげで最後に、あなたと話す事が出来た。あなたも生きて、幸せになってください。」 「待ってくれ、明日香。俺は・・俺も、君と出会えて、充分幸せだったよ。ありがとう・・・。」 その途端、今まで力強く抱きしめていた葵の力がフッと抜けていったのが分かった。急いで、葵の顔を見る宗一郎。 笑顔で見つめる葵の姿があった。 その時、慌てた様子でリビングに飛び込んできた英彦。 「大変です! 奥様が! 真理さんの姿がありません!」 それを聞いた宗一郎と葵は、リビングを駆け出していった。 三人はエントランスに立ち、迷っている。 「どこに言ったんだ?」 ふと、葵が小さなメモ用紙を見つける。 それは、エントランスの飾り台の上に置かれていた。 三人は、そのメモ用紙を手に取り読んだ。 『罪を償います。私も、せめてあの展望台で。葵の事、お願いします。     真理』 三人は慌てて、玄関のドアを開けて外に出る。 見ると、小走りで門扉の方へ走り去っていく真理の姿があった。 三人も急いで後を追うが、真理は既に門扉を開けて出ていくところだった。 「駄目〜‼︎ ママ〜‼︎」 葵が声の限りに叫んだ。真理は、門扉を出たところで、一度ふっと葵の方を振り返ったが、すぐに走り去っていく。
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