ケース2️⃣ 前世呪怨

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三人は息を切らしながら、何とか門扉の所まで走ってきたが、それから更に真理を追いかける体力は、もう限界にきている。 それでも諦めまいと門扉を出て、展望台の方へ走り続けようとした時、その先の林の入口から、こちらへ歩いてくる人物が二人見えた。 その二人は、段々三人の元へと近づいてきて、やがて人物がはっきりする。 貴志と、それに引っ張られるように連れられてきた、真理の姿であった。 「ママ!」 葵が思わず声を発して、真理の方へ駆け寄る。真理はその場に、座り込んだ。 宗一郎と英彦も歩み寄り、貴志が皆んなに説明する。 「今日何か分からないけど、嫌な胸騒ぎがして急いで黒木邸へとやってきたんです。そしたら、葵ちゃんが『ママ!』って尋常じゃない感じで叫んでるし、真理さんが門扉から走って出ていく姿を見て、それで真理さんを追いかけたんですよ。」 宗一郎は、汗を流しながら言った。 「良かった。貴志くん、ありがとう。真理は、今から展望台へ行って自殺しようとするところだったんだ。」 この状況が、どこか普通ではないと感じていた貴志だったが、その事実を聞いて、ある結論へと辿り着く。 「そうだったんですね。という事は、真理さん⁈ が。・・・でも、まさか。」 そして貴志は、抱き合う真理と葵を見つめた。 宗一郎と英彦も、無事だった事への安堵と、走り疲れた事で途方にくれている。 抱きしめ合っていた葵は、やがて真理の顔をしっかりと見つめ、その小さな両手で真理の服を掴み揺さぶりながら訴えた。 「私の中の明日香さんは、あなたに展望台から落とされて殺された。明日香さんの、これからの幸せを奪ったあなたを絶対に許せない。憎くて憎くて仕方がない。」 全身の力が抜けたような状態で静かに聞いている真理。葵の目から、また涙が溢れた。 「でもね。私にとっては、あなたは・・・・それでも、やっぱりママなのよ! 私にとって、大切なママなのよ! ママがいて、パパがいて。そんな当たり前のような事が、私の幸せなんです! だから、ママ!死のうなんて思わないで! 私から消えてしまわないで!」 真理の目から涙があふれ、そして声を出して泣いた。
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