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テーブルの上に、飲み物の入ったグラスが置かれた。中身に浸かった氷が微かに音を立てて揺れる。
その飲み物を置いた人物は、その後ゆっくりとソファへと腰掛けた。鬼切店長だ。
ここは、彼の家。
その向かい側で、テーブルの上に置かれた飲み物を手に取ったのは貴志。それを勢いよく飲み干してしまう。
「おい、おい。慌てるなよ。」
鬼切店長が、グラスを片手に持ったまま呆れた顔でそう言った。
「いや俺、鬼切店長が自家製で作っている、このレモネード、大好きなんですよ。」
貴志が笑顔で返す。それを見て、鬼切店長も微笑んだ。
静かな時を刻んでいく、どこか落ち着けるリビング。貴志は学校から下校後、そのまま鬼切店長の家に来た為、制服姿のままだった。
貴志がソファに座ったまま、口を開く。
「今日、バイト休みだったから、家に帰らず直接来てしまいました。」
ソファに深々と座り込んだ鬼切店長は、貴志に温かい笑顔を送りながら話す。
「俺の方こそ、せっかくバイト休みだったのに、家に誘って悪かったなあ。デートとかなかったか?」
貴志は、少し恥ずかしそうに俯きながら答えた。
「デートなんてないですよ。付き合ってる彼女自体いないし。」
「そうなのか。若いのに、もったいないな。」
鬼切店長は、手に持っているグラスのレモネードを一口飲む。
貴志は、こうやって鬼切店長と過ごす事に、少し緊張する部分もあるが、どこか心が落ち着ける事に安堵感を抱いていた。それはおそらく、家族や他の誰にも話せないような事でも、何故か鬼切店長には閉じていた心の扉みたいなモノを自然と開く雰囲気があったからである。
確かに鬼切店長は、バイト先の店長である。それと同時に、先日から貴志に対して悩みを静かに聞いてくれて、適切なアドバイスを与えてくれる良き人生の先輩という存在でもあった。
「で、この前教えた前世を読み込むやり方、どうだった?」
鬼切店長が、唐突に聞いてくる。
「まあ何とか、出来ました。いくらか意識を失う事も少なくなってきたみたいで。」
「そうか。良かった。俺が方法を教えた、みたいに言ってしまったが、貴志自身が本来持っている潜在能力なのだから。俺が凄いわけじゃなくて、お前が凄いんだ。」
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