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いつもひとりで行くこの喫茶店に、友達を連れて入るのは初めてだった。
店に入ると、チャイコフスキーの弦楽セレナーデが流れていた。
僕たちは、僕がいつも座っているカウンターの右端からふたりで座った。
ここはいわゆる名曲喫茶と呼ばれる、クラシック音楽を聴くための喫茶店だ。
今でも「私語厳禁」を貫いている昔ながらの名曲喫茶も残っていると聞くけど、ここは特にそんなこともなく、いつもお客さんは普通におしゃべりをしていた。
久しぶりに会った友達と昼飯を食べたあと、僕のいきつけの名曲喫茶に行ってみようよという流れになったのだった。
「ここはリクエストもできるんだ。何か聴きたい曲あったらマスターに言うよ」
「俺、クラシック全然わかんないからいいよ」
いやいやいや、と右手を顔の前でひらひらさせて彼は笑った。
弦楽セレナーデは第三楽章が始まっていた。
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