その瞳に映るもの。

1/1
前へ
/12ページ
次へ

その瞳に映るもの。

恋人が他の女とデートしてたら大抵の彼女は怒るだろう。 でも自分には怒る権利も資格もない。俺達は、所謂ゲイカップルだから。 元々恋人の貴樹(たかき)にはその毛が無かった。俺がゲイで貴樹に恋をして玉砕覚悟で告白した。 絶対に断られると思われた告白は意外にも貴樹のOKの返事で叶った。 正直今でもからかい半分で付き合ってるのかと疑うくらいだ。 彼奴は俺と付き合ってからも女と良く一緒にいたから。 それに一々嫉妬してたって仕方ない。本来はそれが一番正しい在り方だからだ。 そう考えても、貴樹が俺以外の人を優先するのが気に喰わなかった。 俺だって彼奴ともっと居たいのに、どうして貴樹は浮気紛いな事を繰り返すのか。 いっそひと思いに別れを告げてくれたら俺も楽になれるのに。 俺の方から別れ話は出来ない。折角好きな奴と付き合えたんだからもう少しだけ隣に居たい。 「バカじゃない?」 幼馴染に罵倒され俺は首を竦める。 相談に乗ってくれると言うから話したのに、まさか口から罵倒が飛び出してくるとは思いもしなかった。 「ほんっとにバカ。男同士の恋愛が大変なのは知ってるけど、お前のは全く違うからね」 「だって……」 思わず反論しかけてまた黙る。幼馴染は何時だって正しい。 俺だって自分がバカな事をしてるのは分かってる。でも一度好きだと言われたら簡単には離れられなくなる。 もどかしさの中、一人じゃ解決出来ないと思って幼馴染の聖に相談した。 結果は罵倒しか返ってこなかった。 「今すぐ別れて来たら? 振ったら少しは楽になると思うよ」 別れ話かぁ……やっぱ潮時だよな。 俺は腹をくくる事にした。 「……行ってくる」 「ん。頑張って〜」 聖に声援を送られた俺はその足で恋人の貴樹の家に向かって、話があると玄関まで来てもらった。 「どした? お前から来るなんて珍しいじゃん」 貴樹はどっかの女と会ったばかりなのか、やけに上機嫌だった。 (俺の前では無愛想のくせに) そこが良いと思っていた時もあるけど。だからって雑な扱いをされたいわけじゃない。 「……話がある。俺と別れてくれ」 「……は? 何の冗談?」 貴樹は豆鉄砲を喰らった様な顔になり眉間にシワが寄る。 「……冗談じゃない。これ以上付き合う意味なんてないだろ」 「それはお前が勝手に決めた事だろ? 別れる理由にはならない」 直ぐに別れてくれない貴樹を不審に思いながらも話は終わったと踵を返す。 けれど貴樹は俺の腕を掴むと家に引きずり込む。玄関に押し倒され馬乗りになる貴樹を見上げる。 「おいっ! 何だよ!」 貴樹は怒ってるのか泣いてるのか判らない表情で呟く。 「絶対に別れない。あの幼馴染になんか言われたのか? 男同士なんてヤになった?」 コイツの言いたい事が理解出来なくて俺は抵抗した。 「それはお前の方だろ! 俺の事なんか好きじゃないくせに」 「好きだよ」 ハッとなって貴樹を真っ直ぐに見つめると向こうも俺を見つめていた。 「好きじゃなかったら、空と付き合ったりしない。男だろうが関係ないんだよ」 その目に嘘はなくて。両目から涙がボトボト溢れ出した。 「っ、バカやろぉ……」 「うん。ごめん。俺も意地の悪い事をした」 空に嫉妬してほしかった。 切ない声でそう言い、謝る貴樹にキスをする。 貴樹の本心に触れた俺は今回だけ許してやった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加