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ざぁ、ざぁ、ざぁ・・・雨の音が聞こえる。
今日は7月7日・・・そう七夕。
3年前の今日も、こんな雨の日だった。
急に降ってきた雨で、図書館から出るにも出られずにいたとき、ある背の高い男が、駅まで一緒に行きませんか、と傘を差しだしてくれた。
それが和弘だった。駅に着く前に、私は和弘に惹かれていた。今日は七夕なのにね、織姫と彦星、逢えませんね、なんて言う、ロマンチックなところにも・・・。私は、半ば強引に、お茶に誘い、次の約束を取り付けた。和弘が好きそうな、恋愛映画・・・。
和弘から、告白されるのには時間がかからなかった。着実に、キスをかさね、愛を交わし、順調に行っている、と思っていた。好きだよ、の言葉もくしゃっと笑うその笑顔も私だけのものだと思っていたのに。
1か月前、私は和弘に呼び出された。行きつけのおしゃれなカフェ。
「香耶乃、もう、これっきりにしないか」
唐突に言われて私は戸惑った。
「どうして・・・私、何か悪いことした?」
「好きな人が出来たんだ」
「誰?」
「僕の会社の秘書課の日下部律子さん、だ」
その名前なら、何度も聞いた。モーションかけられて、困っちゃうよ。今日も夕食に誘われたんだ・・・そんな台詞だ。3か月前くらいが最初だったか・・・ここ1ヶ月はぱたりと名前をきかなくなったから、彼女が諦めたとばかり・・・。
「別れたくない・・・よ」
「僕の心は、もう君にはない」
そんな・・・ことって。私の、ちっぽけなプライドが言わせた言葉は、
「そう・・・幸せになってね」
心の中じゃ、真逆のことを思っていたのに。そんなこと、1ミリも思ってなかったのに。
結局、私は別れを受け入れるしかなかった。そして、今日、7月7日がやってきた。苦しくて、苦しくて、今日は会社をズル休みした。この1か月間、苦しくて苦しくてたまらなかった。
今日もきっと、日下部さんとやらと夕食デートするのだろう、和弘は。今日が私たちの記念日だと言うことも忘れて・・・あの同じ言葉で、あの同じ笑顔で、彼女とも接しているのだろうか。彼女さえいなければ、2人、何事もなかったように記念日をお祝いしていたのかな。そう思うと苦しくなる。
もう終業の時間だ。和弘に逢いたい。でも、逢いたいって思うほどもう和弘は私のものじゃないことを思い知らされる。大好きだった笑顔も優しさも彼女にあげてるの?もう一度だけでいい、わたしに逢ってあの頃のように「大好きだよ」って言ってほしい。うわべだけの言葉は、辛いだけだけど、私の妄想力であなたの言葉があれば、もう一度、信じられる気がする。・・・ううん、あなたは、もう私のものじゃないってくらい、分かってる。でも、私は和弘じゃないとダメなの。もう1度、2人、あの頃に戻れないかな。・・・無理なのは、分かってる。・・・和弘、和弘、和弘・・・ぉ。
ばんばんっ!私は、私の両頬を叩いて、気合いを入れる。こんなんじゃ、ダメだ。あの頃には、もう戻れないんだ。
洗面台の鏡には、泣きはらした私の顔が映っている。鏡の向こうの自分に聞いてみる。和弘以外の男を愛せる?と。答えは、NO、だ。1ヶ月は、あなたを忘れるために十分な時間じゃなかった。・・・だったら、どのくらい時間があれば?私は、絶望的な気分になる。和弘、和弘、和弘。この名前が頭の中から消えるのはいつの日だろうか。今、逢いたくてたまらない・・・あなたに。例え、私を愛していないあなただったとしても。2人で、逢って、あの笑顔を見せて?嘘でもいい、「愛してる」って聞かせて?逢いたいの・・・今。
窓の外は、まだ、止みそうもない大雨が降っている・・・。
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