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 朝、いつもの乗換駅。  通勤ラッシュの中、私は人混みに揉まれながら電車を待っていると、突然あたりがシン、と静まり返った。  人々のざわめきや駅の構内放送などの様々なノイズが、まるでラジオのスイッチを切ったように一瞬で聞こえなくなる。  あたりは夕闇に包まれているかのように薄暗く、ホームを照らす照明は薄汚れた電球のように弱々しい光を放っていた。  光の当たらない部分では何かが蠢いているような、そんな気がしてくる。  周囲を見回すとそこに出勤途中のスーツ姿の群れはなく、その代わりに周りにいたのは、フード付きで頭から足先まで全身をゆったり覆う黒い服を着た、まるで昔映画で見た死神のような姿の連中だった。  よくある死神のイメージと違うとすればそれは大きな鎌を持っていないことぐらいだろうか。  その時駅のスピーカーから歪んでひび割れた音が流れ始める。  構内の案内放送のようだが、何をいっているのか聞き取ることができない。  遠くから鋭い警笛が聞こえると、周りの黒装束の連中はまるで示し合わせたかのように一斉に前へ進み、線路に降り始めた。  線路の上で整然と並ぶ彼らを私はホームの上に一人取り残されて見下ろす格好になる。  ふと振り返った黒装束の一人と目があった……ような気がした。  黒装束のフードの奥には目はもちろん、まるで真っ暗な穴のように顔も見えなかった。  だがその「視線」はまるで「お前も降りてこい」と言っているようだ。  私も彼らと同じように線路に降りるべきだろうか?  迷っていると向こうから一層けたたましい警笛を鳴り響かせながら電車がホームに滑り込んできた。  それは車体はもちろん窓まで煤けたように真っ黒で、車内の人影すら見ることができない。  電車はブレーキ音を響かせながら線路に降りた黒装束たちを次々に轢き潰し、血と肉片を撒き散らして次第に減速して、やがて停車する。  そして、電車の乗車口が一斉に開くと、その奥から強烈な光が溢れ出した……。  そこで突然、私は白昼夢から目覚めるように元の駅のホームに立っていた。  周囲のざわめきが戻ってくる中、電車がホームで止まっているのが見える。  だがその停車位置は半端で乗車口は開いていない。  周囲の人々は騒然としている。  スマホで写真を撮っている人々、右往左往する駅員たち。  彼らが発する中からいくつか聞き取れた言葉の断片を繋ぎ合わせて、誰かがホームから電車に飛び込んだらしいことを知った。  もしかしたらその人も私と同じものを見たのかもしれない。  そしてあの誘いに乗ってしまったのだろうか。  だとすれば私ももしかしたら……。  構内放送が電車の運休と振替を伝え始める。  ホームから人が次第にはけていく中、私は取り残されるようにその場に立ち尽くしていた。
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