後編

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後編

 いつからつけられていたのだろう。見るからに高そうな衣服をまとった男が、銃口をかまえていた。オラーツィオが銃をかまえようとしたが、男の部下が腕を打ち抜く。 「こちらも、やられてばかりではないんでね。さあ、銃を捨てて娘を渡せ」  さきほどと違い、ルドはM9を捨てない。逆に男に銃口を向けた。部下の銃口から弾丸が飛び出すが、頬をかすめただけだった。すばやく動いて、部下を打ち抜く。残りは地位が高そうな男だけとなる。お互いが銃口を向け合って、動きが止まった。 「嬢ちゃん、逃げよう」  腕の傷をかばいながら、オラーツィオはジェマを引き寄せる。 「させるか」  両手利きなのか。男は左手に回転式銃を持って、オラーツィオの背中を打ち抜いた。みるみるうちに出血量が増えて、躰の力が抜けていく。ジェマが傷口をおさえても、とまらない。 「嬢ちゃん、怪我してない?」 「オラーツィオがいたから」 「なら、よかった。オレは盾にでもなるよ。ただ最後に」  最後の力をふりしぼって、オラーツィオが懐から小型拳銃を取り出した。無駄のないうごきでふりかえると、男の左脇腹をうちぬく。男はよろめいて、回転式銃を落とした。その一瞬の隙を、ルドは見逃さない。すっと男の懐に入り込む。同時に二つの銃声が、朝焼けの空にとどろいた。  ジェマは目を真っ赤に腫らして、涙をこぼしていた。拭いても拭いても、止まらない。 「泣かないでおくれ。命を賭して戦うと決めてくれたのは、彼ら自身の選択でもあるのだから」  義父アロルドがやさしく、頭を撫でた。 「だって、だって……全部、義父さんの策略だったなんて!」  二つの勢力が力を伸ばしはじめ、いつまで中立の立場を保ったままいられるかわからなかった。そこでアロルドは娘と一緒に街から逃亡するために、一計を案じたという。無言で出て行けば、追っ手を差し向けられるのはわかりきっていた。だからルドに頼んで死を偽装し、役人か組織が仕掛けてきたら混乱に乗じて娘と共に逃げようとしていたという。 「すまないね、ジェマ。巻き込んでしまって。あまりに私は情報屋として名が売れてしまっているから、策を講じる必要があったんだよ」 「だとしてもルドもオラーツィオも、こんなにボロボロになって。死んじゃうかと思った」  二人は全身包帯に巻かれて、寝台の上だ。鉄橋で追い詰められたとき。ルドのM9だけでなく、男が持っていた拳銃からも弾丸が飛び出した。男は絶命したが、ルドは心臓から外れていた。致命傷はまぬがれたが、肺近くにうちこまれたのもあって重傷を負った。 「アロルドさんの人脈のお陰で、助かりました。この船も知り合いが乗せてくれているんでしょう」  医術のこころえのあるものが駆けつけてくれて、手当てをしてくれた。そのあと、船が来て重傷である二人を運んでくれたのだ。 「このまま他の国へ行くつもりなんだ。二人もいいのかい? 私たちについてこなくても佳いんだよ」  アロルドが問いかけると、オラーツィオは二カッと歯を見せて笑う。 「ついていきますよ。どうせあの街ではお尋ね者になっているでしょうし」  ルドもやわらかく笑んで、肯定した。 「あの街に未練はありませんからね」  扉のノック音がひびいて、アロルドは友人に呼ばれた。ひさかたぶりに会う旧友なのか。声をはずませながら、部屋を出て行く。オラーツィオも「外の空気を吸ってくる」と、出て行ってしまった。部屋にはジェマとルドが残されてしまう。 「傷いたむ?」 「まあな」  ぶっきらぼうに言って、ジェマの髪をなでた。 「悲しそうな顔をするな。ちゃんと生きてる」 「うん、そうだね。よかった」  笑顔を浮かべるも、涙はとまってくれない。ふいにやさしいほほえみをうかべて、ルドは頬に触れた。 「かわいいな。もっと顔をよく見せてくれないか」  泣き顔を見られたくないからと、顔をそむける。幾度か押し問答を繰り広げて、とうとうルドが強引に肩ごと抱き寄せた。吐息を感じる距離におどろいて、体中がのぼせあがる。 「ジェマ、これからも側にいてくれ。愛してる」 「あなたの愛情表現はわかりにくいのよ。でも、好きよ。腹立つくらい」 「悪かったな、わかりにくくて」  と、強引に唇をうばわれた。 了
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