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繭の中で二人が寄り添っている。
一人は少女のような顔立ちで、薄い桃色のラグジュアリーを着ている。
もう一人は男だ。無精髭はまばらに生え、くたびれたスーツは所々色落ちしている。
下着姿の娘は男に抱き締められたまま、窓から月を眺めている。その表情は虚ろで、自分が今どのような状態なのか理解できていないようだ。
スーツ姿の男は娘をきつく抱き、顔を娘の肩にうずめている。
「夢生」
男が娘を呼ぶ。娘は何も反応しない。
「夢生」
焦がれるようにもう一度呼ぶ。娘は一度瞬きをし、男を優しく抱きしめた。
男は娘の恋人であり飼い主だった。親子ほど離れてはいたが、二人は互いに愛し合っていた。結婚の約束もしていた。
男は娘から距離を取り、その姿をじっくり観察した。身体が熱くなるのを感じ、スーツのボタンに手をかけた。
娘は男を憐れに思った。今ここにいる娘は、男が求めていた娘ではない。別人だ。
男は娼館の人間に騙されていた。
彼が求めていた娘は一昔前の高級娼婦だ。彼女はすでに朽ち、娼館の奥で死を待っていると誰かが言っていた。
今ここにいる娘は、夢生とよく似ているだけの他人だ。ある日突然拐かされ、気付いたらここにいた。
嫌がる娘に女性ものの衣服や下着を与えた。女性のような仕草をしなければ、男は躾だの何だの理由をつけ娘をこの繭の部屋に閉じ込めた。
男が子供に求めたのは夢生という「娘役」だ。別に本物の娘じゃなくても良い。女じゃなくても良い。
可哀想に。娘は夢心地のまま心の中で呟いた。
男が娘の上に乗る。
娘はそれをただぼんやり見ているだけだった。
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