1-1. もはや恒例行事

2/8
前へ
/82ページ
次へ
 時折「うーん」だとか、「あ、(ちげ)え」だとか、あるいは消しゴムを床に落とす音だとか、そういった効果音めいたものしか聞こえない。  今日は恒例となった感じもする、定期考査前の勉強会。  早いモノで三回目だ。  いちばん最初は昨年の冬。  後期中間考査のよくわからない流れに乗っかって吹奏楽部の一部で始めた自主的な勉強会だったが、徐々に参加者が増えていって、今では同じく音楽室を使う合唱部員も加わっている。  テストまで一週間を切りそうなこのタイミング、出席率の高さから考えれば自然消滅の可能性はほとんど無さそうだ。 「エリー?」 「むー?」  ボクの真正面に陣取る高島(たかしま)神流(かんな)の問いに、彼女の左隣――ボクから見れば右斜め前――の小松(こまつ)瑛里華(えりか)が下唇を突き出してノートを凝視したままで応じた。 「コレさぁ」 「……私が解るとでも?」 「あー……」  神流がペン先で指した問題を一瞬だけ確認したエリーは、じっとりとした視線を返しながら答える。 「ん?」という顔をした神流はエリーのノートを見たが、あっさりと状況は飲み込めたらしい。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加