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無事に受理を済ませて、市役所の自動ドアから出た。空を見上げれば、雨は止んでいた。
「雨、止んじゃったね」
「止んでよかったじゃん。何で?」
そう訊き返せば、彼は少しだけそっぽを向きながら、言う。
「……夫婦はじめてのキスも、傘の中が良かったんだもん」
「……っ」
“ああ、先輩。……ずるいです。”
そう言ったあの日のわたしと同じく、私の顔も真っ赤に染まった。
「……じゃあ、する?」
「えっ」
驚いた彼の頭の上に、傘を開いて僅かに差し込んできた光を遮った。
じっと、見つめ合った。自然と、唇が重なった。
どれくらいキスしていただろう。苦しくなった私は、彼の胸を傘の柄で軽く叩く。
「……がっつきすぎ。高校生か」
「だって、梨々香が可愛いから」
「………馬鹿」
――……わたしたちの夫婦1日目は、まだ、始まったばかりだ。
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