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10:00
最寄り駅では、彼が既に待っていた。近づいていけば、「よっ」と手を挙げる。
「晃汰」
先輩、と呼ばなくなったのは、いつだったっけ。彼も慣れた様に「梨々香」と呼ぶ。
「またそのTシャツ?」
「気に入ってんの。そういう晃汰も、いつもと一緒じゃん」
「気に入ってんだよ」
彼の服も、見慣れたグレーのTシャツに黒スキニーだった。細身で良く似合ってるのがムカつく。
「行こうか」
そう言って、目的の場所行のバス停に向かおうとする彼のTシャツを後ろから引っ張った。振り向いた彼に、提案する。
「ねぇ、……歩いてかない?」
「……いいよ?」
「恋人最後の日だし、散歩デート」
「……ははっ」
じゃあ、持って歩ける飲み物でも買おうか、と一番近くのカフェに立ち寄った。カラン、と音を立ててドアを開く。
何度も何度も来たこのお店。
高校生の時は勉強をしに。大学の時は、旅行の計画を立てに。社会人になってからは、家に行く前の飲み物を買いに。
ここに来る目的もこんなに変わっているのだ。私達の関係が変わらない訳が無い。
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