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「入れて」 「え? 傘は?」 「……内緒」 「何? どしたの」 当たり前の様に私から傘を受け取って濡れない様に支えた彼の顔を見上げた。 困った様に目を逸らして、だけど、観念した様に笑った。 「今朝、雨が降るって天気予報で見て」 ああ、きっと同じチャンネルを見ていたんだろう。 「……昔の事を、思い出したんだ」 「だから、今日、傘持ってこなかったの?」 「そうそう」 彼は二重の瞳を弛めて、そう笑う。低くて心地よい声が、私に向かって降ってくる。 「付き合って初めての日、今日と一緒だったよね」 「…………うん」 「懐かしいなぁ、俺もテンパっててさぁ。黙っちゃった梨々香が泣きそうになってて、どうしようかと思ったんだよね」 「そうだっけ?」 「えー、相合傘、したじゃん。忘れちゃったの?」 「…………」 憶えてる。全部。 だって、私、貴方の事大好きだったもの。 貴方が笑ってるだけで、それだけで、嬉しくて仕方なかったもの。
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