序章

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序章

 溢れんばかりの朝の日差しが、夜の凍てついた闇を溶かしてゆく。やがて光は、街全体を温もりでくるみこんだ。  ここはベスビアナイトという国。国王と王妃がおさめる国である。二人の間には女児しか生まれず、王妃は子を産めぬ体となってしまった。国王は一人娘を男児として育てるとさだめたのだった。いまや、その娘はすくすくと育ち齢十二となった。明るく朗らかな娘へと成長したが、少しばかり難点があり、皆を困らせていた。それは―― 「クリスさま、どちらにいらっしゃるのですか」  娘の専属メイドが声を張り上げて、城中を探し回っていた。働き者で、まだ十五歳の時に娘専属に認められた。今はもうすでに二十歳であるから、かれこれ五年は働いている。そんなメイドは着慣れたピナフォアと薄い茶髪を振り乱しながら、見慣れた娘の姿を探している。しかし影すらも見つからない。ため息を吐き出して、顔に疲れを浮かばせる。彼女に鎧を着た体格の良い男が声をかけてきた。 「おや、あなたは王子専属のメイドではございませんか?」 「ええ、そうなのですけれど」 「また王子が脱走でもいたしましたかな?」
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