始まりは雪の夜

6/9
103人が本棚に入れています
本棚に追加
/361ページ
 私は確かに日本人だった。黒髪に焦茶色の眼と象牙色の肌という、典型的な日本人の特徴を持つ容貌だったはずだ。  それがどうした事が、今や頭には猫のような黒く柔らかな毛に覆われた耳が生えている。背中まで伸びた髪は、何故か首のあたりまでは黒く、そこから毛先にかけてグラデーションがかかったように徐々に白くなっている。  おまけに顔つきや体型までが別人のように変わって、十代なかばほどの若干幼さの残る外見になっている。そして目の色も猫のようなグリーン。元々あったはずの人間の耳は何故か消え失せたようになくなっていた。  まさかと思い腰のあたりを手探ると、そこには猫のような長く黒いしっぽ。耳と同じように先の方が白い。  あまりにも自然に体に一体化していて今まで気づかなかったのだ。  どうやら私は猫娘になってしまったらしい。  後で知ったのだが、そういう通常の人間とは異なる特徴を持つものは、ここでは「亜人」と呼ばれているらしく、理由はわからないが、私はその亜人とやらになってしまったみたいだ。  もしかして別人の身体に私の精神だけが入り込んでしまったのか? とも考えたが、保護された時に身につけていた衣服は確かに私のものだったし、肩からかけていた鞄にも私の荷物が入っていた。当たり前のように携帯は電波が届かず使い物にならなかったが。  この世界で初めて鏡で自分の姿を見たときはあまりにも信じがたい変貌ぶりにショックを受けて 「これは夢だ。目が覚めればいつもの日常が待っているのだ」  と現実逃避しかけたものだが、慣れとは恐ろしいもので、いつまでも元の姿に戻らない日々を過ごすうちに、違和感も徐々に薄れつつあり、今ではどうにかこの世界で亜人生活を送っている。  こうなってしまった以上は仕方がないという諦めの気持ちもあったのかもしれないが。
/361ページ

最初のコメントを投稿しよう!