閉店直前のお客様

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 早速厨房に戻った私はフライパンを火にかけると卵をひとつ割り入れる。  その間にバターと少量のマスタードをパンに塗って、スライスしたトマトにチーズ、レタスを一枚と少し厚めに切ったハムを乗せる。  その上に焼きあがった目玉焼きを載せて、マヨネーズをかけてパンで挟めば完成だ。ここがマヨネーズのある世界でよかった。  ハムとチーズを食パンに挟んだものは、日本にいた頃、自炊するのが面倒くさい時によく作っていた私の手抜き料理だ。しかしそれだけでも私の舌は満足していたのだから、それに目玉焼きやレタスにトマトなんて加わった日にはそれこそ殺人的美味しさに違いない。と信じたい。  それにしても、あのお客さん、相当くたびれているみたいだった。ついさっきまで仕事してたって言ってたし、尋常じゃないほど疲れているのかも。  私は相変わらず大鍋の様子を見つつも下ごしらえしているレオンさんに声をかける 「あの、レオンさん。私、作りたいものがあるんですけど……」 「は? さっきも言ったろ。俺は手が離せないって」 「だから、そこから作り方を指示してもらえませんか? 実際には私が作りますから」  お願いすると、レオンさんは人の悪そうな笑みを浮かべた。 「お前さ、さっき俺を変態呼ばわりしたよな。そんな失礼な事しといて、親切に教えてもらえると思ってんのか?  頼みごとする前に何か言う事あるんじゃねえのか?」 「その後でレオンさんだって私のこと変態呼ばわりしたじゃないですか。お互い変態呼ばわりした事で、その件は相殺ですよ」 「口の減らねえ奴だな」  レオンさんは肩をすくめた。 「まあ、そういう事にしといてやる。それで、なんの作り方を知りたいんだ?」
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