閉店直前のお客様

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 しかしそれよりも目を引く特徴があった。男性の左耳より少し上のあたり。そこにこぶし大の白いカサブランカのような花がひとつ飾られていたのだ。今まで反対側に立っていたし、お店に招き入れた時は慌てていたから気づかなかった。  私の視線に気づいたのか、男性は自身の頭部に開く花を指差す。 「ああ、これか? 飾りじゃないぞ。生えているのだ。我輩の頭から」 「え?」 「我輩にはドリアードの血が混じっているらしくてな。その影響か、こうして頭に花が咲いているというわけだ。まるで髪飾りのように。昔からよく『女の子なら良かったのに残念だな』なんて言われた。まったく失敬な話だ」  今まで何度も誰かに同じような説明をしてきたんだろう。男性はなんでもない事のように言うと、サンドイッチに齧り付く。  ドリアードって、確か木の精だかなんだかだっけ? 言われてみれば、さらりとした緑色の髪の毛も、爽やかな草原を連想させる。  女の子じゃなくて残念だとか言っていたけれど、頭に咲く花はこの男性によく似合っていると思う。中性的な雰囲気にも違和感がないし、緑色の髪と白い花のコントラストも綺麗だ。  そういう意味も含めての「残念」だったんだろうか。
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