始まりは雪の夜

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 そうして私が今までのなんやかやを思い出していたその時、威勢のいい声が厨房から響いた。 「おいネコ子! お前、さぼってんじゃねえぞ。料理はもうできてるんだ。さっさと運べ。13番テーブル! 昨日みたいに皿ごとひっくり返したりなんかしたらタダじゃおかねえからな!」  声の主はこの食堂で料理人として働いているレオンさん。  外見は私よりいくつか年上で、おそらく20才前後。澄んだ空のような瞳ときれいなプラチナブロンドの髪を持っている。顎くらいの長さまである髪の毛は、調理中の今は頭部にバンダナのような布を巻いて邪魔にならないようにしている。  普通の人間より少しだけ耳が長くて尖っているのは、彼がハーフエルフだからだとか。さすがはエルフの血を引いているだけあるのか、王子様然としたとても端正でどこか上品な顔立ちをしているが、それを台無しにするように、口を開けば乱暴な言葉がぽんぽんと飛び出す。それを目の当たりにするたびに「残念美形」という言葉が私の頭をかすめる。  おまけに彼は私の名前である「ユキ」を無視して「ネコ子」と呼ぶ。  何故だ。ユキの方がネコ子より短くて言いやすいだろうに。  そういえば、昔のアニメ映画にあったっけ。魔女の女の子が初対面の男の子に「魔女子さん」とか呼ばれるやつ。  もしかしてレオンさんて、その時の男の子みたいに私の本名をいまだに知らないのかな……だからネコ子で誤魔化してるとか……?  それとも他人に興味ないだけ? でも他の従業員に対しては普通に名前で呼んでいる。解せない。  いまだその謎が解けないまま、私はカウンターに乗せられた料理を受け取った。
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