香りで繋ぐ

1/1
233人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

香りで繋ぐ

「委員長に書類は自分で持って来いってお伝えください。いつもご苦労様です。」 「いえいえ、僕はこれで失礼します。」 今週も図書委員長からいつも頼まれる書類を生徒会室に届ける任務完了。委員長は生徒会が…特にさっきの副会長が苦手らしく、僕はいつも押し付けられている。 「僕も生徒会が…というか生徒会室の香りが苦手なんだけどな…」 僕はどこにでもいる平凡なΩだ。生徒会といったら有能なαの集まり…でも生徒会室が苦手なのはαがたくさんいるからじゃない。あそこは僕にとって特別な香りがして、長居すると体調が悪くなる。前に一度、副会長に香りについて聞いたことがあるが香水はつけておらず、何も匂いはしないとのことで僕だけがわかる香りみたい。 その時ふと思い出した“運命の番”の話。自分の運命の相手だけが反応する香りがあるんだったっけ。僕みたいな平凡な奴には無関係だと思ってたけど、もしかしたら生徒会室に出入りしている人の中に僕の運命の番かもしれない人がいるのかも。生徒会に出入りする人といったらこの学園だけでなく社会的にも有能な人のはずで、今後の人生も輝かしい…そんな人の運命の番が僕だなんて相手に申し訳なさすぎる。そう思った時にとても怖くなった。だから僕は生徒会室に近づきたくないんだけど、委員長も訳ありみたいで。毎週書類を届けるために足を運んでいる。僕のヒートは他の人Ωみたいに月一回ではなく、今のところ3ヶ月に1回くらいか半年以上こないときもあって、不定期だ。だけど、もし出会って相手に迷惑かけないように強めの抑制剤をいつも持参している。幸いにも生徒会室に香りの持ち主はいつも不在なため、誰の香りなのかはわからない。 「とりあえず今週も緊張したな…帰ろう。」 「まだ仕事してんのか?ちょっとは休めよ」 「いつまで休憩してるんですか?だいたい誰のせいで…」 「はいはい、今からすればいいんだろ。……ところでお前なんか香水つけてるか?」 「僕は香水なんてつけてませんよ。そんなに臭いんですか?」 「いや、臭くはない。むしろ甘い花?みたいなすげーいい匂い。今日は特に香る気がする、わかるだろ?」 「残念ながら僕には何の匂いもしませんが…、以前匂いについて聞いてきた彼はお香のような白檀の香りがするって言ってました。なんなんでしょうね」 「白檀と花の香り…おい、そいつは誰だ?」 「え?図書委員の市来環君ですよ。ついさっきまでここにいましたよ。委員長が僕に会いたくないからって毎週の報告書を彼に届けさせるんですよ。まったくそろそろ彼に忠告にでも行きましょうかね…ふふ。」 「あ、あぁ、それはお前に任せるわ。それより市来、環…ね。」 それからしばらくして、図書室に突然副会長がやってきて委員長といろいろあって、僕は毎週の書類提出任務から解任され、書籍整理をするようになった。書籍倉庫で整理をしていたら受付から係を呼ぶ音が聞こえた。 「すみません、お待たせしました。貸出ですか?」 「市来君お久しぶりですね、ちょっと会議室を借りても大丈夫ですか?」 「副会長、お久しぶりです。今空いてますので大丈夫ですよ。生徒会関係ですか?」 「役員の会議なんです。少し時間がかかりますので時間が来たら帰宅して下さい。施錠はしておきますので」 「いえいえ、書籍整理がありますので大丈夫です。声かけて下さい」 直接会わないようにすぐに倉庫の奥で作業にとりかかった。幸いにも顔を合わせることはなかったが、様子を伺いつつ倉庫から出た時にあの白檀の香りがして焦った。 「やっぱりあの香りの持ち主は生徒会役員の方なんだ…。どうしよう、抑制剤は飲んでるけど帰ったほうがいいかな。でも…いや、顔を合わせると相手に迷惑だ!…帰ろう。」 副会長に申し訳なかったけど施錠をお願いして僕は役員と会うことなく帰宅した。 「結構遅くなってしまいましたね。さ、施錠して帰りますよ。」 「図書委員はどうした?」 「遅くなるから帰るように言ったんです。市来君が気になりますか?」 「やっぱこの香りの持ち主はそいつだわ。この匂い…クる。」 「変態。言っときますが市来君は至って真面目な生徒です。くれぐれも迷惑をかけないように。」 「わかってるよ。何でこんなにタイミング合わねぇかな。こんなに近くにいるのに一度も市来を見たことねぇ。まさか、逃げてるわけじゃねぇよな」 「市来君に会いたいならバラ園に行ったら?よくあそこで昼寝してるって言ってたよ?」 「なんで書記が知ってんだよ。」 「一年の時同じクラスでよく話してたからね~。」 「バラ園…な。覗いてみるか」 「ストーカーは犯罪ですよ。」 「うるせぇ」 僕は図書館の次に好きな場所であるバラ園のベンチで読書中。ここは年中温かくて、静かで、お昼休みをここで過ごすとすぐにウトウト…。 「次の授業…なんだっけ、えっ…と…zzz」 いつものこのパターン。バラの匂いに紛れ込んでるみたいですごく落ち着く。ちょっと、ちょっとだけの過眠を許してください。この選択が間違ってたことを後から後悔することになるとは… 「あぁー、疲れた。書類、書類ってやってらんねぇーわ。ちょっと休憩。」 生徒会の仕事から逃げ出して休憩がてらに外を散歩してたらバラ園がみえてきた。そういや、市来はバラ園によくいるって書記がいってたな…よし、ついでに行って顔でもみてくるか。バラ園の中は綺麗に整備されているが、男子校ということもあり花を愛でるやつはいない。俺も初めて来たくらいだが、確かに昼寝には丁度いい場所だ。人の気配なさすぎだが、本当にここにいるのか?疑いつつも足を進めると中央のベンチに誰かが寝ている。顔には本がのっていてわからないが、あれが市来か?いつも生徒会室で香る匂いがバラにかき消されてわからねぇ。起こさねぇようにそーっと近づいて本を取り上げて驚いた。 「めちゃくちゃ可愛いじゃねーか…」 やべっ、思わず声に出しちまって市来の呼吸が一瞬乱れたことに驚いた。起きちまうかもしれねぇと思いつつも気づけば頭を撫でていた。猫みてぇ、拾って帰りてぇけどいきなりはさすがにな… 「会えてよかった。今度は話をしような?」 最後にひと撫でして大人しく生徒会室に戻る。何気なく最後に触れた指先を口元に運ぶと、あの甘い花の香りがして、満たされた気分になった。 「んぅ?へ…いま何時だろ?あれ?本が閉じてる…あれ?」 誰か来たのかな?そういえば頭撫でられた…?いやいや、そんなわけないか。夢でもみてたかな。 あの日から少し熱っぽい感じがして、バラ園に行かずに自宅待機していた。4日ぶりに登校したけどやっぱり体調が優れない。クラスメイトが心配してくれるのも申し訳なくて、言われるまま保健室に向かっている。だんだんぼーっとした感じが強くなり、なんだかふらふらする。これは保健室じゃなくて寮に帰った方がいい…よね。そう思って廊下の角を曲がった時に誰かとぶつかった。その瞬間、強烈な白檀の香りが広がったかと思ったら身体が異常に熱くなって…まさか、ヒート!? 「あ、ごめ、んなさい」 「まてっ…、市来もしかして」 「鷹藤会長!?あ、ぁ僕…ごめ、なさ…ぃ」 突然のあの香りと、それに誘発されて発情したことに驚いた。そして、白檀の…あの香りの持ち主が鷹藤会長だったことにも驚いたと同時に、見つかってしまった焦りと、申し訳なさと…わけがわからなくなった僕はその場から逃げ出した。寮に帰るつもりだったけど気づいたらバラ園についていた。とにかく、早く抑制剤を… 「ダメだ!何飲もうとしてるんだ!?」 「返して下さいっ!そして僕から離れて、、、っお願いっ」 「なぜ?運命の番をやっとみつけたのになぜ離れる必要がある?」 「ちがっ、運命じゃ、なぃ。」 「運命だろ!お前は俺の匂いに反応して今発情してるんだろ?ほら、辛いだろ?…ココ。」 「や、やだぁ。触らない、でぇ。や、だ、、、辛ぃ、からぁ。」 バラ園に飛び込んで持参している抑制剤を飲もうとした瞬間、会長様に手を掴まれて奪われた。発情しているΩのすぐ横に優秀なαがいる最悪な状況。僕の理性が保てる間に会長に離れるように言うが逆にどんどん近づいてきて怖い。僕を運命の番と間違えていて、話を聞いてくれない。あろうことか僕の股間をスラックスの上から握り込まれ本格的に辛い。どうしよう、どうしよう。僕の不注意から会長様の人生に迷惑がかかってしまう。 「も、ほんとに離してぇ…お願っい…」 「辛いだろ?たくさんイって、、、ほらっ、イけっ!」 「や、やだっ、つよっ、や、やゃ、ああぁぁああぁ…っ」 バラ園で会長様にイかされた僕の意識はそのままブラックアウトしたらしい。目が覚めたら広いベッドに寝かされていて…きっとここは会長様の自室だろう。全身の倦怠感はあるけどお尻は無事そうだ。今のうちに抑制剤を…、幸いにもスラックスのポケットに強めの抑制剤が残っていて安心した。急いで口に入れ飲み込んだ時に部屋の扉が開いて会長様が入ってきた。 「起きたか…おいっ!!まさか、飲んだのか!?」 「(ビクッ) は、ぃ。す、すみません。飲むのが遅くなって会長様に迷惑をかけてしまって…本当に、、、」 「違うだろ!こんなに強い抑制剤を今まで何回飲んだんだよ…子どもができない身体になったらどうすんだ?運命の番と出会った今、こんなものを飲む必要はないはずだ。」 「だ、だめですっ!それと、会長様の運命の番は僕なんかではありませんっ!目の前に現れてごめんなさい。もう視界に入らないようにします。」 「なんだと?」 「有能なαであるあなたの運命の番が僕であるはずがない。そんなことはあってはいけません。もう会いません、誓います…だから、どうか忘れて下さいっ」 「勝手なことばっかり言ってんなよ。俺は絶対忘れないし、お前は俺のモノだ。お前がそのつもりなら…お前の意見はいらない。無理やりにでも番にするだけだ」 「まってっ!怒らないで、落ち着いて!今はヒートでおかしくなってるだけで絶対後悔する!だからっ」 「静かにしねぇと、舌噛むぞ?あ、塞いでやろうか」 「まっ、んんっ、ぅ、っん、ん、、、や、っ、んんぅ」 全てを飲み込むような長いキスから解放された時には息も絶え絶えで、酸素を取り込むのに必死。その間にも会長様の手は止まらず僕の服をを脱がしていく。 「ほん、とにやめて、、、、後悔しま、、すょ」 「まだそんなこと考える余裕があるのか。いいから、もう黙って大人しく感じろ。」 「や、やだっ、感じたくないっ…。も、ソコ触らなぃで、くださ、ぃ。お願い」 「ちゃんと感じてるな。こっちは素直に反応して、涙流して喜んでくれてるけどな…」 「言わないでぇ、うぅ、っ」 「素直になるまで言うし、何度もイかせてやるよ。なぁイケよ…環。」 「やああぁぁ、耳やめっ、、、ああぁあぁあぁ」                                                                                                                                                          それから会長様に何度も何度もイかされて、体力のない僕は少しも動けずにベッド上で息を乱している。 「はぁ、はぁ、これ、で…満足しまし、たか…」 「何言ってんだ?本番はこれからだろ…ここ。噛まないと。」 「だ、だめ、、ですっ!それだけはだめ!一度契約したら引き返せないんですよ!僕はどうなってもいいですが、あなたはそうじゃない。」 「まだそんなこと言ってるのか…。」 「どうか、、、どうか後悔する前に今日の事は忘れて。必ずあなたの運命の番がいるはずです。」 抑制剤が効いてきたのかなんとか落ち着いて話せるようになってきた僕は、会長様の頭を必死に離しながら説得するが、僕の喉元やうなじを執拗に舐めている会長様が怖い。お願い…伝わって。目を覚まして、落ち着いて考えて…。 「うっ、、、、ぐすっ、、、お願ぃ、、、っ」 「・・・はぁ。わかった、抑制剤も飲んでるし今回は諦めてやるよ。」 「本当、、、です、、か?よかっ、、、た。」 「今回はな」 「…ぇ?」 「俺の人生を心配してくれるのは嬉しいが、お前が何と言おうと俺の運命の番は市来 環、お前なんだよ。」 「そ、そんな、、、」 「次環にヒートが来た時は、どこにいようと必ず見つけて運命の番であると証明する。逃げるのは自由だが必ず捕まえて、そして…必ず項を噛む。」 「や、だ、、、何ですかそれ、、、、んぅ、ちょ、、っ、んっ、、、やめっ。」 「俺はもうお前しか考えられない。次のヒートまでココしっかり守ってろよ。」 項を噛む宣言をした会長様は僕の拒否を深いキスで阻止し、僕の項に強く吸い付いてきた。絶対キスマークつけられた…。                                                                                                                                                                                                                                                                     次のヒートで項を噛まれることは絶対に止めないと。今回のヒートは予想外だった。運命の番の強い香りに誘発されるとは思わなくて抑制剤の対応が遅れた。次は絶対にないようにしないと。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!