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目覚めたとき、私は深い海の底にいた。光の届かない深海を彷徨いながら、私は思考しようとする意思も能力もすっかり失っていた。
どこからともなく現れた魚が、私の目の前に居すわって離れない。
かつて一度も見たことのない気味の悪い外形をした魚だ。魚はじっと私を見つめている。
深海魚だ。
その硝子玉のような両眼を見つめるうちに、深海魚の言葉が脳内に直接語りかけてくるのを私は確かに感じていた。
「地上を呪え。地上に存在するあらゆるものすべてを呪え」
深海魚はゆったりとした動作でヒレを動かし、何処かへと消え失せた。
私は身体が軽くなるのを感じていた。上へ上へと、身体が少しずつ浮上してゆく。やがて、深度が浅くなるにつれて、水中が明るくなっていった。水面から顔を覗かせたとき、私は水平線の向こうに夜明けの太陽を見ていた。陽は高く昇ってゆく。私は波間を漂っている。体内に腐敗ガスが発生して風船のように膨張した私は太平洋を彷徨い続けた。水平線に太陽が沈んでは昇る。その光景を何度もみた。月明かりに照らされながら冬の星空を見上げる日々が続いた。それは果てしなく永遠に続くかのように思えた。
やがて、二ヶ月のときを経て、私は因縁の白砂海岸に再び漂着したのだった。
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