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目覚め。私は酷い頭痛と吐き気に襲われていた。まるで石がつまったように頭が重い。粘土を飲み込んだように胸と腹の辺りがムカムカする。
時計を見ると、二十時だった。眠気を感じて一分間だけ目を閉じようと思ってから何秒も経っていない。というよりも、時間がまるで経過していない。
それにしても暑い。九月だというのに猛暑はまるで収まる気配がない。
式村から借りた少年漫画を再び手に取ってみた。あれほど楽しいと思っていた漫画がちっとも楽しくない。もういい。このまま読まずに式村に返してしまおう。
私は少し考えてから、ギターを手に取った。アンプに繋がず、音を出さずに弾いた。ちっとも気分が乗らない。それでもどうにか練習メニューを終えた。時刻は九時半を過ぎていた。
アイスが食べたい。
一階に降りた。茶の間のほか、すべての部屋の電気が消えていた。どうやら家族はみんな寝静まっているようだ。台所の冷凍庫を探ってみた。アイスは一本もない。
「無いのかあ」
無いとわかれば余計にアイスが恋しくなる。いったん自室に戻り、ホットパンツを脱いでジーパンに穿き替えた。上は面倒だから無地の黒いキャミソールのままでいい。財布と携帯電話をつかみ取って、一階に降りた。いつものスニーカーを引っかけて玄関の外へ。
コンビニまでの三分間の道程を歩きながら、ふと夜空を見上げてみた。月明かりが青かった。
車道を走る自動車のヘッドライトが、私の横を連続して何台も行ったり来たりしていた。夜間とはいえ、まだ深夜というほどでもない。だから、クルマの通りは決して少なくはない。
歩きながら、つい何十分か前に見たばかりの奇妙な夢を思い出していた。夢の中で私は見知らぬ暴力団員風の男と一体化していた。私と一体化していた男は仲間たちから横領を疑われ、白砂海岸でリンチされた挙げ句に撃たれて死んだ。海に沈んだ男は深海魚に出逢い、無差別的な復讐を唆されて浮上し、再び白砂海岸に舞い戻った。
単なる夢として忘れ去ってしまうにはどうにも現実感がありすぎた。あの陰惨で薄気味悪い映像が、脳裏にありありと浮かび上がって消えようともしない。
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