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「2章・9」まずは、守りから
下弦の月が夜の空に元気の無さそうな姿を浮かべている 、明け方。
パトリシアは、生き物の姿の無い霊廟に来ていた。死者の魂が、あちこちに立っている場所だ。
「朝に近い夜ー。そんな言葉が私の若い頃に流行ってましたね。」
ふいに、掛けられた男の声。闇の中を黒い大きな羽を羽ばたかせて降りて来る悪魔の姿。パトリシアは、ジロッと見た。
「あんた、今でも若いけど。」
「嬉しいですね、お世辞でも。オジサンは、『若い』というフレーズが好物ですから。」
「ここで地震が起きた原因を知ってるんだろ?」
「え、何の事ですか?」
パトリシアは、「嘘つき!」と頭の中で悪態をつく。他の場所で何も起こってないのに、おかしいじゃないか。
ついでだ。気になってる事も聞いてみよう。
「私は思うんだが、アグアニエベさん?」
アグアニエベは、何時もの人の良さ気な顔をして側に飛んで来た。整った顔立ちの銀髪の魔物が。
「はいはい、何でしょうか。」
「何故、私達の3人が転生して同じ場所に居るんだ。わざとか?」
「わざと?酷いですねえ、私は天使ですよ(悪魔だが)。人々の幸せの為に働いています。本当です!」
どうも、嘘っぽい。意図的に魂を転生させてる気がする。
「ガブリエルを私の家に連れて来たのは、あんたじゃなかったかな?」
「えー?そうでしたっけえ。オジサンは物忘れが多くて。エヘヘー。」
ほら、誤魔化した。分かってんだよ。
「地震があった夜に、こっちから強い魔力を感じたんだけど。何が起きたのか、知ってるんじゃ?」
「いいえ、何の事だか。じゃ、私は失礼します。忙しい、忙しいー。」
あ、逃げた。ますます、怪しい。1人残って、パトリシアは溜め息をつく。
(どうしろって、言うんだよ!)
好きだった。だから、結婚しようと思ったんだ。それが、突然、別れを告げられて解消。
その後、自分の親友と婚約だなんて。傷付いた、グサッーと。
(私だって、抱き締めたいんだ。彼女を。)
でも、今は女の子だし。彼女より、小さい身体だし。転生前の男の身体へは戻れないんだ。守ってやりたいのに。
何で、あいつだけ男なんだ?不公平だ!
エドワードの屋敷に集まったメンバー。エリレンが執事に料理を教わり。庭では、エドワード相手にエリザベスが剣の練習。
仕事を終えて来たガブリエルが来て、パトリシアが到着した。パトリシアが、皆を集める。
「今夜は、皆さんに渡したい物があるでしゅう。」
普段のパトリシアキャラの女の子らしい仕草で、ポーチから何かを取り出した。
ガチャン、ドスン、ドンーー!
エドワードの屋敷の居間の絨毯の上に武器の山。全員が、呆気に取られた。何をする気
なのか。
「霊廟に行って来たでしゅ。あそこの墓に歴代の王様の遺品も葬られてたので、コピりましたでちゅ。素敵でしょ?」
「・・・・・・・。」
無反応。好奇心から触りに来たのは、エリザベスだけだった。
「何なの?こんなの、見た事ないわ。」
「昔々の戦の時に使われてたみたいなの。でも、平和になったから忘れられちゃったみたいなのでしゅう。」
「私達に、これを持って戦(いくさ)しろって?何なの!」
「そうじゃなくて、身を守る為でっちゅ!」
大昔には、この国にも魔法使いが存在していた。だから、武器には魔力が掛かっているのだ。パトリシアは説明する。
「まだ、魔法を使い出して日が浅い。1人で戦う時があるかもしれないだろ。強い武器が有れば、逃げ延びられるからな。」
エレンには、守護魔法の杖。ガブリエルには、炎を操る魔剣。エリザベスには、パワーを付与する聖剣。
「パティ、僕には?」
「名刀を山ほど持って来てやっただろ。」
「もう、無いよ。」
「はあ?全部、折ってしまったのか!」
「頑張った証拠だよ。ギルドでCレベルに上がったんだから、誉めて。ご褒美が欲しいな、僕!」
嬉しくて、ギルドに通って、パトリシアの与えた名刀のコピーは全てゴミとなってしまっていたのだ。
恐る恐る、与えられた剣に触れるガブリエル。それを、パトリシアは見ていた。
(転生する前の君は、女剣士だったね。君に勝てる男は少なかった。君なら、使いこなせるはずだよ。)
ガブリエルの為に選んだ剣だ。転生する前は、聖剣を使いこなしていたのだった。
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