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はじまりは、こんな事
ガブリエルは訪ねてくれた友人のパトリシアとお茶を飲みながら、世間話をしていた。
閉じ籠(こも)っているのを、度々、来てくれる優しさに感謝している。信頼できる数少ない人の1人。
「今、都で人気なのでしゅう。名前を変えると運が良くなるそうなにょ。ガブリエルさんも、変えてみたら?」
名前を変えたくらいで、良くなりそうもないけど。そう、思ったが同意する。
そういえば、何処で知り合ったのかしら。このパトリシアとは。話を聞いているふりして、脳ミソを回転させる。
(おかしい、出て来ない!学校でもないし、パーティーでもないし、知り合いの知り合いでもないし。うーん。)
ふいに、1人の貴族の娘の顔が浮かんだ。ウェスト伯爵家のエリザベス。同じクラスの生徒で、挨拶くらいはしていた。その紹介だ。
「町の姓名判断のお店に行って観てもらったでしゅ。名前を変えたらいいでちゅう。」
「ああ、名前ね。それは、素敵だわ。」
「でしょう、でしょう。ガブリエルさんのお名前は弱いんですって。『ガブリエルゴ』にすると開運でちゅう!」
「ああ、素敵だわ。ありがとうございます。」
パトリシアは、上機嫌。ニコニコして帰って行ったのだが、何者だ?
「エリザベスさんが訪ねてきて、友達を紹介するわーと言ったのよね。それから、パトリシアさんが来てるのよね。」
おかしい。エリザベスは頭が良くて美人で、学校では目立つ存在の生徒。
ガブリエルは、地味子で名前も忘れられる事はアリアリ過ぎる日常茶飯事。
「なのに、突然に訪ねてきて友達も紹介して。変、なんか変!」
客人が帰っても片付けに来ない使用人。慣れてるので、この家の主人の娘が茶器を台所まで運ぶ。料理人も無視だ。
(パトリシアの言ってたように、名前を変えても誰も気がつかないわね。)
私なんか、居ても居なくても同じなのよ。閉じ籠(こも)ってから同じ考えが頭の中をグルグルと回ってる。
私、ガブリエル・イーストンは先々週に婚約破棄されました。舞踏会の人々の前で。恥ずかしめられたんです。
それから、部屋から出ないで閉じ籠(こも)っています。
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