「2章・7」家族なんですもの

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「2章・7」家族なんですもの

エリザベスのお見舞いに来たガブリエルとエレンは、部屋の中にいっぱいの花籠に驚いた。エリザベスは、笑う。 「何なの?これって。毎日よ、婚約者が花を送ってくるの。」 エレンは、ガブリエルを見た。ガブリエルの元婚約者がエリザベスの婚約者と知ってるからだ。ガブリエルは、笑顔だけど。 「関節が痛くて、筋肉痛らしいの。医者より、パトリシアさんの薬よ。そうだ、ガブリエルさんに渡す物が。」 エリザベスは、痛みをこらえながら起き上がる。そして、宝石箱から何かを取り出した。 「パトリシアさんには、叱られたのよ。ダンジョンなんか、止めなさいなんて。でも、私の力で手に入れたかったから。ガブリエルさんに。」 エリザベスが手渡したイヤリングに、ガブリエルは戸惑う。 「どうして、私に?」 「何なの?受け取って。あなたの宝石を親友だった人に踏みつけられたんでしょう。」 自分の為に、危険なダンジョンに入ったという事実。驚きだった。 ポタッーー。 涙が、零れ落ちる。庇ってもくれなかった父親や家族だった。なのに、エリザベスは私の事を考えてくれたのだ。 1人ぼっちだと思ったけど、違ったみたい。 「何なの?泣くー?」 エリザベスは、ガブリエルを抱き締める。エレンは、もらい泣きした。 エドワードはというと、こちらも贈り物を受け取っていた。パトリシアから。 「わおー、剣じゃん!」 パトリシアが、小さなポーチから取り出した剣に大喜び。 「名刀「ファントム」、凄い!買ってくれたんだ、やっぱり!」 「冗談だろ、代金は徴収(ちょうしゅう)する。君がギルドで稼いだ金から。」 「うわっ、ガメツイーー!」 「作れる刀師(かたなし)が居ないから、みつけるまで私が作ったコピーでやってろ。」 ドサッ、ドサドサーー。 床の上に天井から落ちてくふ剣の山。魔法で複写した物は、耐久性が無い。ポキポキと折れていくのは、目に見えている。 かっての騎士フランソワ・ランスロットは、闘う事が大好きだった。完全に覚醒したなら、何本、壊す事やら。 夜のお勉強会「パトリシアの魔法教室」 今夜は、お休みしていたエリザベスとエドワードが復帰して出席しました。手に包帯をしているエリザベスに驚かされる。 「何なの?直ぐに治るわ。エレンさん、心配しないで。」 「だって、エリザベスさん。あなた、もうすぐ、結婚式でしょ?」 「大丈夫よ。その時は、パトリシアさんに治して頂くから。」 「ギルドの仕事も、駄目ですからね!」 聞いていたガブリエルが、怒る。 「私達は、他人じゃないのよ。心配させないで!」 呆気にとられたエリザベスが、笑い出す。自分を親身になって心配する者は居なかったのに、こんな処に案じてくれる者が居る。 「はいはい、分かったわ。ガブリエルさん、気をつける。」 「エドワードさんもですよ!」 「あー、とばっちりだ。僕は、男だよ。結婚の予定も無いし。僕と結婚する?」 「もー、エドワードさん。茶化さないで下さい。本気ですから!」 それを眺めていたパトリシアは、四人が絆を深めている事を知る。いつの間にか、家族になっていたのだ。 公爵家の娘として気位の高いエリザベス。それが、パトリシアに頼んで下町の安い宝石店へ出かけたのだった。 ガブリエルへの贈り物を買う為だ。 『実は、ガブリエルが婚約破棄された舞踏会の場所に私も居たのよ。見ていたわ、酷い場面を。皆、見ていただけ。私もよ。』 だから、自分も同じ目に合ったのかしらと、呟く。味わった寂しさは、同じ体験をしたから良く分かる。 筋肉痛をこらえて、初めて働いて得たお金で買った友人への贈り物。それは、宝のように価値があるはずだ。 今夜、ガブリエルの耳に、そのイヤリングは誇らしげに輝いていた。
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